一章

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 そんな日の午後。予約の相談者も終わり夕方辺りから中庭の草取りをしていると、玄関の方を向いて大和がうなりだした。 「大和どうした?」  例の客が再来訪のようだ。  大和は背中の毛を逆立てジッと一点を見つめてうなる。  白椿もその異変を察知し玄関へ急ぐ。 「こんにちは日高です」  来た、やっぱり来た。  白椿はゆっくりと玄関の扉を開ける。それと同時に日高が踏み込んできた。 「先生いますか?」  玄関を開けて廊下を挟んだ向かいに中庭がある。そこにいた俺を見つけるとズカズカと何も言わずに上がり込んできた。  プライベートの中庭へは入れたくない、そう思った俺は日高に向けて手の平をかざすと波動を打った。  一瞬、心臓の鼓動の様に周囲全体の空気が揺らぐ。強い振動に日高は足元がふらついた。その隙に白椿が中庭へのサッシを閉める。 「先生を怒らせないで下さい」  白椿の言葉に日高はたじろぐ。  俺は大和の頭を撫でて落ち着かせると、犬小屋へ戻るように尻を優しく叩く。  俺は機嫌が悪い。非常に悪い。何が気に入らないかって、日高の常識の無さに腹が立つ。無作法にも程がある。  今すぐ帰れと言いたかったが、なんせ置き土産があるのだから突き返せないのが現状だ。仕方なく仕事場へ通すことにした。  白椿は獣毛の貼り付けてある椅子に日高を案内して座らせる。俺は高ぶった気持ちを落ち着かせながら日高と対面する。  開口一番、日高はこんな事を言い出した。 「あの、先生は私にあの女の生き霊が憑いていたことをご存知だったのですか?」  その言い方。あれだけの事を仕出かしといて、あの女と言い切ってしまう日高の神経を疑ってしまう。  俺は何も言わず黙ったままでいた。 「先生。どこまでご存知だったのですか?」 「全てです」  そう言うと、日高の目つきが変わった。 「それを分かっていたのに、どうして私の事を引き留めようとしなかったんですか! 生き霊に憑かれている事を分かっていたのに私を助けようとは思わなかったのですか? それって人としてどうかと思いますよ!」  なんだか哀れすぎてため息が出る。 「日高さん、残念ながら私は除霊はしておりません。ただの占い師ですから」  日高は納得がいかないようで、更に食いついてくる。 「あの女のせいで俺の幸せが台無しだ!」 「黙れ!」  人間の口から出たとは思えない言葉に腹が立って少しだけ声を荒げてしまった。
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