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 カフェで食後のコーヒーを西村さんと楽しんでいるとき、着信音が鳴った。千春からだ。スマートフォンを手に取ると、西村さんの眉間にしわが寄る。  ホント、あからさまなんだよなあ。嫉妬していることを隠そうともしない。 「千春から」 「ああ、あの同僚か」  なんだ、といったふうに西村さんは背もたれに背中を預けた。 「はい」 「ごめん南、今大丈夫?」 「うん、ちょっとだけなら。どうかした?」 「あ……そういえばデート中だったね。ん……特にどうしたというわけじゃないんだけどね、なんていうか……ちょっと吐き出したくて」 「えっ? なにかあったの?」 「あっ、だからね……」  千春にしては珍しく、歯切れが悪い。 「あのね! 林さんから連絡先もらった!」 「えっ?」  想像もつかなかったびっくり仰天な報告に、思いっきり声がひっくり返った。向かいに座っている西村さんも、何事かと目をぱちくりとさせている。 「ど、どういうことそれ。林さんに付き合ってくれって言われたの?」 「はあっ? 林が?」  西村さんの持っているコーヒーカップが揺れた。私もそうだけど、彼も本気でびっくりしたようだ。 「やだ、違う違う。そうじゃなくて……林さんって、顔に似合わずすごくいい人だったんだよ。それなのにさ、別れ際にお元気でなんて言うんだよ? もう迷惑なんてかけませんって言うようにね。腹立つよね」 「ああ……そうだね」 「だから私言ってやったの。私はあなたに興味がありますって。そうしたら大ウケされて、連絡先のメモもらっちゃった」  照れているのか、千春は喋った後に大声で笑った。なぜだか私もうれしい。 「そうなんだ! やるじゃん、林さん」 「あはは、そうだね。まあ……そんだけ! デート中ごめんね」 「ううん、大丈夫。応援するよ」 「あ~、違う違う。人として興味があるってだけだからね」 「そっか、分かった」 「じゃあね」 「うん、バイバイ」  私の通話が終わるや否や、西村さんが身を乗り出した。 「なんだったんだ、今のは」 「ああ……はい。よく分からないんですけど、千春が林さんの優しさに感動して、また会いたいって思ったみたいです」 「彼女がか? たった数時間会っただけで、林の良さが分かったんだ……」 「千春、いい子ですよ」 「そのようだな。さすが南の友人だ」  西村さんの顔が、ものすごく優しくなった。西村さんって、仲間のことすごく大事に思ってるよね。 「友達って感じみたいですけど、そのうち四人でどっか遊びに行きましょうか?」 「却下だ」 「ええっ?」 「南とのデートは誰にも邪魔させん」 「ちょっとー。千春のいい人柄に感動したんじゃなかったんですか?」 「それとこれとは別だ」  ぷいっと拗ねたように西村さんは横を向いた。ガタイが良くて強面のくせに、こういうときはちっとも見栄を張ろうとしない。  可笑しい。 「なんだ?」 「いいえ。――好きですよ」 「――そうか。俺は愛しているぞ」  そう言ってニヤリと笑った。悔しいけれど、ちょっぴり頬が熱くなる。  相変わらず彼の方が、私よりも一歩も二歩も先を歩いているようだ。
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