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例のスーパーを通らずに、どう遠回りをしようかと考えていた。しかもあの店は私の住んでいるアパートから近いということもあって、時々利用しているお店でもあるのだ。
別のスーパーを開拓することも考えなきゃな……。
会社帰り、そんな考えごとをしながら歩いていると、すぐそばの道路脇に車が停まる気配がした。何気なくそちらに目を向けると、昨日私にぶつかった男が車から素早く降りてきた。
あっと思う間もなく、私はその男に腕を掴まれすごい勢いで車に連れ込まれてしまった。
「きゃあっ! なにするの! やめて離して、どこ……もががっ」
誰かに気付いてもらいたくて、必死に叫んで必死で暴れた。でも相手もそんな私の考えに気が付いたようで、口を覆い、ドアもさっさと閉めてしまった。
ヤバい、ヤバいヤバい! 殺される! 昨日のあの人、きっと殺されたんだ。だから現場を見てしまった私も、きっと口封じで殺されるんだ!
嫌だよ、まだ死にたくない、死にたくないよ!
そんな私の願いもむなしく、車は発進してしまった。涙目になりながらもこのままどこかに連れて行かれるという恐怖に耐え切れず、私はシートに背中をつけるような不自然な格好にされたまま必死で暴れた。
「鬱陶しいぞ女! 痛い目にあわされたくなかったら、大人しくしてろ!」
両肩をぐいっと押さえつけられて、鈍い痛みが走った。男は私の鼻先に顔を寄せ、すごんでいる。
怖い、怖いよ千春~。
ギュッと目をつぶって固まった。気が変になってしまいそうで怖くて、もう必死で神経を落ち着かせることに集中する以外、私にはどうしようもなかった。
車は、それほど時間が経たないうちに目的の場所に到着したようだった。「出ろ」と言われて無理矢理車から引きずり降ろされ、目の前の由緒正しそうなどでかい日本家屋に驚愕する。
なにこれ! 武家屋敷?
屋根の付いた和風の門に、連なる日本瓦。広い敷地に、よく手入れされたキンモクセイやハナミズキが見える。
ちょっと待ってよ、この屋敷。まるで老舗のヤクザの家みたい。……私、いったいどうなっちゃうの?
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