159人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
2
カフェで食後のコーヒーを西村さんと楽しんでいるとき、着信音が鳴った。千春からだ。スマートフォンを手に取ると、西村さんの眉間にしわが寄る。
ホント、あからさまなんだよなあ。嫉妬していることを隠そうともしない。
「千春から」
「ああ、あの同僚か」
なんだ、といったふうに西村さんは背もたれに背中を預けた。
「はい」
「ごめん南、今大丈夫?」
「うん、ちょっとだけなら。どうかした?」
「あ……そういえばデート中だったね。ん……特にどうしたというわけじゃないんだけどね、なんていうか……ちょっと吐き出したくて」
「えっ? なにかあったの?」
「あっ、だからね……」
千春にしては珍しく、歯切れが悪い。
「あのね! 林さんから連絡先もらった!」
「えっ?」
想像もつかなかったびっくり仰天な報告に、思いっきり声がひっくり返った。向かいに座っている西村さんも、何事かと目をぱちくりとさせている。
「ど、どういうことそれ。林さんに付き合ってくれって言われたの?」
「はあっ? 林が?」
西村さんの持っているコーヒーカップが揺れた。私もそうだけど、彼も本気でびっくりしたようだ。
「やだ、違う違う。そうじゃなくて……林さんって、顔に似合わずすごくいい人だったんだよ。それなのにさ、別れ際にお元気でなんて言うんだよ? もう迷惑なんてかけませんって言うようにね。腹立つよね」
「ああ……そうだね」
「だから私言ってやったの。私はあなたに興味がありますって。そうしたら大ウケされて、連絡先のメモもらっちゃった」
照れているのか、千春は喋った後に大声で笑った。なぜだか私もうれしい。
「そうなんだ! やるじゃん、林さん」
「あはは、そうだね。まあ……そんだけ! デート中ごめんね」
「ううん、大丈夫。応援するよ」
「あ~、違う違う。人として興味があるってだけだからね」
「そっか、分かった」
「じゃあね」
「うん、バイバイ」
私の通話が終わるや否や、西村さんが身を乗り出した。
「なんだったんだ、今のは」
「ああ……はい。よく分からないんですけど、千春が林さんの優しさに感動して、また会いたいって思ったみたいです」
「彼女がか? たった数時間会っただけで、林の良さが分かったんだ……」
「千春、いい子ですよ」
「そのようだな。さすが南の友人だ」
西村さんの顔が、ものすごく優しくなった。西村さんって、仲間のことすごく大事に思ってるよね。
「友達って感じみたいですけど、そのうち四人でどっか遊びに行きましょうか?」
「却下だ」
「ええっ?」
「南とのデートは誰にも邪魔させん」
「ちょっとー。千春のいい人柄に感動したんじゃなかったんですか?」
「それとこれとは別だ」
ぷいっと拗ねたように西村さんは横を向いた。ガタイが良くて強面のくせに、こういうときはちっとも見栄を張ろうとしない。
可笑しい。
「なんだ?」
「いいえ。――好きですよ」
「――そうか。俺は愛しているぞ」
そう言ってニヤリと笑った。悔しいけれど、ちょっぴり頬が熱くなる。
相変わらず彼の方が、私よりも一歩も二歩も先を歩いているようだ。
最初のコメントを投稿しよう!