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「あっ、すみません」
前をおろそかにしていたせいだ。慌てて謝り頭を下げた。
「いや、こちらこそ。大丈夫でしたか?」
「はい、大丈夫で……」
顔を上げた視線の先には、結構なイケメンさんが立っていた。パリッとした雰囲気は、どこかで見たことがあるような雰囲気だ。
「おや?」
その人は、私の顔を見て首を傾げた。そしてスマートフォンを取り出して、なにかを確認している。
「もしかして、南ちゃん?」
「えっ?」
初めて会う人に、突然名前を呼ばれて驚いた。それとももしかしたら、どこかで会ったことがあるのだろうか? この雰囲気は、私も微かに見覚えがあるのだ。
「ああ、ごめん。突然名前を呼ばれたら、びっくりするよね。僕は西村俊樹の従兄で、島田一儀です」
「えっ?」
あまりの驚きに、すっとんきょうな声が出た。西村って、あの西村……だよね?
てか、ちょっと待ってよ。私自己紹介なんかしてないのに、なんで私の名前を知ってるの!
ヤバくない? なんだか滅茶苦茶ヤバい気がする。
「そ、そうなんですか。えと、あの……じゃあ、失礼します」
「いやいや、ちょっと待って。南ちゃんとは一度、話をしてみたいと思っていたんだ。あそこの喫茶店で待っていてくれないかな。今からちょっと仕事の打ち合わせがあるんだけど、三十分ほどで終わるから」
「ええっ……別に私は……。あっ、それに買い物してきた物を早く冷蔵庫に入れないと」
「なに? アイスクリームとか溶ける物を買ってきたの? それとも肉とか魚とか?」
う……。そのどれも買ってない。
そうですと嘘を言いたいところだけど、そう言ったら見せろと言いそうな雰囲気だ。もう、押しの強そうなその感じは、本当に誰かさんとそっくりだ。
仕方がないので素直に、いいえと答えた。
「じゃあ、いいじゃないか。……待っててくれないと、家まで行くよ。いいの?」
うっすらと笑いながらとんでもないことを言われて、一瞬頭が真っ白になった。
ちょっと待って! どういうこと? なんでこの人が、私の家を知ってるの?
驚愕に目をまん丸くしていると、クスクスッと楽しそうに笑われた。
「こないだ近くまで送ってもらったんでしょ? その時に君、こっそりと後をつけられたみたいだよ」
ええええーっ! 冗談でしょう!
「どうする? 待っててくれるよね」
なんで? なんでこんなに執拗に、私なんかに関わってこようとするの、この人たち!
西村の従兄とかいうこの島田という人も、優しそうに微笑んでいるように見えて妙な圧がある。
……この人もやっぱり、ヤクザの組員なんだろうか?
こんな怖い人に家に来られるよりも、喫茶店で話を聞く方が遥かに楽なのは間違いない。
仕方がないので私は、「はい」と頷くしかなかった。
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