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 指定された喫茶店は、ごく普通のありふれた店だった。木造りの内装が感じよく、居心地もいい。一人で読書をしに訪れたとしても、ゆったりと楽しい時間を過ごせそうだ。  頼んだホットコーヒーをゆっくりと飲む。飲みほしても、島田さんが来る気配はなかった。  ふうっ、とため息をこぼし、鞄からスマートフォンを取り出した。  どうせ待たなければいけないんだ。どんな話をしたいのか分からないけど、もうどっしりと構えるしかない。  開き直ってしまえばこちらのものだ。島田さんが来るまで、いつも使っているSNSを楽しむことにした。 「待たせたね」 「えっ」  声を掛けられ驚いて顔を上げると、島田さんが楽しそうに笑っている。相手が来たのに気が付かないほど没頭している私に、どうやら呆れているみたいだ。  まあ、そうだよね。ヤクザの組員から話があるなんて言われて、怖がらない人なんてきっといない。  私だって怖いんだけど、この態度を見られて勘違いするなと言うほうが難しいかもしれないな。  島田さんは、チラリと私の空になったコーヒーカップを見て、ケーキセットを二つ注文した。 「あの、私のは結構ですから!」 「誘ったのはこっちだから気にしないで。二つね」  島田さんに微笑んで念押しされ、店員は「かしこまりました」と一礼して去っていった。  ……この島田さんって人、やっぱり怖いんですけど。にこにこ笑っている割にはやけに圧が強いし、ただ者じゃない雰囲気ありありだ。 「南ちゃん、今日は無理強いしてごめんね? 君の方でも何か聞きたい事があったら、なんでも聞いていいよ」  え? なんでもって……。  困惑してチラリと窺うと、やっぱり島田さんはにこにこと笑っている。胡散臭いことこの上ない。  でもせっかくの申し出なので、私はさっきから気になっていることを単刀直入に聞くことにした。 「じゃあ、ちょっと……」 「どうぞ」 「自己紹介した記憶なんてないんですけど、どうして私の名前と職場を知っていたんですか?」 「職場?」 「職場近くで私、徹っていう人に拉致られました」 「……ああ、聞いた。――南ちゃん、徹のバカが、怖い思いをさせて本当にすまなかったね」  島田さんは心底呆れた表情をした後、私に向き直り深々と頭を下げた。  その姿は形ばかりのものではなく、本当に心の底から私に悪いと思ってくれているものだと感じられた。怖い人たちとは言え、西村という人もこの人も、心底悪い人というわけではなさそうだ。
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