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 私は地方出身者で、 大学受験を機に 上京してからもう六年になる。 現在は南條生命保険という中堅クラスの保険会社で、データ入力を主とするアルバイトをしている。真面目に頑張って勤務していれば正社員の登用もありということなので、それを期待して勤しんでいるのだ。  東京の水は意外と私に合っていた。 田舎に戻るという選択肢など、既になくなっている。 「あ~っ、疲れた。申込書の不備があってさ、確認に時間とられちゃったよ」 「そうなの? 大変だったね」  愚痴る千春に頷きながらねぎらった。  彼女は私の同期で、気が合う大事な友人の一人だ。余程のことがない限り、お昼時間はこうやって社員食堂で二人でお昼ご飯を食べるのが常となっている。 「ねえ、それはそうと南さあ……。今日ちょっと変じゃない?」  日替わりのハンバーグ定食をつつきながら、千春が私のことをじっと見つめた。 「変? え、どこが?」  確かに今日、少し寝坊したけれど、ちゃんと身だしなみは整えたはずだ。  ぺたぺたと頭を触って髪の毛が乱れていないことを確認する。  うん。ポニーテールだって、綺麗な状態のままなはずだ。 「南、そういうことじゃない」 「へ? じゃあ、どういうことよ?」 「個人的に、何かあったんじゃないかなあってこと。心配事とか気になることとか」 「……え?」  気になることと言われてドキッとした。昨日の怖い、強面イケメンを思い出したからだ。  助けてもらって優しい人かと思ったのも束の間、顔に似合った暴力的な怖い人だった。しかも私は、恐怖に駆られたあまり通報もせずに逃げることを優先してしまった。……思い出すと、今でも落ち着かない嫌な気分になる。 「やっぱり、何かあったんじゃない。話しぐらい、聞くよ?」 「うん……」 誰にも言えないなあって思っていたんだけどな。 どうやら私はこのモヤモヤを、本当は誰かに吐き出したかったみたいだ。 心配してくれる千春に感謝して、私は昨日あったことをかいつまんで話した。
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