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「イケメンだったんだ? その強面」
「うん、かなり」
「そっかー、それはショックだよね。素敵な人だなってときめいたのに、実はヤクザな人かもしれない暴力的な人だったなんて」
「……やっぱり、そう思うよね?」
「え?」
「だから……ヤクザなのかなって」
「そりゃ、そうでしょう! 何度も何度も足蹴にして、おまけに若だなんて呼ばれていたんでしょう?」
「うん」
「それだったらもう、暴力団に決まりだよ」
「だよね……」
真正面から、千春に真顔でそう言われてぐうの音も出なかった。
私はそんな恐ろしい人たちに捕まったおじさんを、置き去りにして逃げてしまったんだ。あの後おじさんは、いったいどうなったんだろう?
「南? あんたまさか、そのイケメンにもう一回会いたいとか思ってるわけじゃないよね」
「まさか、そんなんじゃないよ!」
「じゃあ、なに」
「……私、怖さのあまり通報もしないで逃げちゃったじゃない? おじさんに悪かったかなあって」
「そんなの、しょうがないよ! 南が心配するようなことじゃない! その場に居合わせた状態で通報なんてしてごらんよ。絶対ただで済んでないよ!」
驚き呆れたような表情で千春に叱られた。脳裏に、やたらにすごい目力が浮かんで身震いする。
確かにそうだった。あの時まごまごしていたら、私もどうなっていたかわからないんだ。
「ね? 悪いこと言わないから、しばらくはそのスーパーの傍を通らない方がいいと思うよ」
「うん……わかった。気を付ける」
そういえば私はあの人に、しっかり顔を見られてしまっているんだ。うっかり出会ったりなんかしたら、どうなるか分かったものじゃない。気をつけなくては。
あれ?
「なに? 今度はどうしたの?」
「えっ、なに。私なんか顔に出てた?」
「出てた、出てた。で、何を思いついたの?」
「あっ、いや……。さっきまでおじさんを置いて逃げちゃったこと後悔してたのに、いつの間にかその気持ちが薄くなっちゃってるなって思って」
「なに、それ。そんなの当たり前でしょう? あくまでも南は、巻き添えくらっただけなんだから。それよりも、これからも関わり合わないように本当に注意した方がいいよ。分かった?」
「うん、分かった」
千春のおかげで、気持ちが少しだけ楽になれた。
何度も心配して念押ししてくる千春に感謝して、私は神妙にうなずいた。
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