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「おい」
「ひっ!」
「なにボヤボヤしてやがる。来い!」
逃げようにも昨日の男の人とは別に、もう一人怖そうな人が私の背後についている。観念して、私も彼らの後に続き門をくぐった。
「ただいま帰りやした」
外から見ても広いだけあって、玄関から見える廊下も長い。奥の方に見えるガラス窓の向こう側には、庭が見えた。
そんな一見、由緒正しそうな人々が住んでいそうな妄想を追い払うが如く、いかつくガラの悪そうな人たちがわらわらと現れる。
「徹か、ご苦労さん。……ん? なんだ、その女は」
「ほら、昨日俺が言った若の……」
徹と呼ばれたその男が、声をひそめながら小指を立てる。ざっと血の気が引いた。
ちょっと待って。いま私、ものすごくヤバい状況にいるんじゃないの? やっぱりさっき、諦めずに逃げるべきだったんじゃないの? てか、今でも!
顔を上げてがっくりした。
あああ~、ダメだ~! いかつい五人の男に取り囲まれてる!
「ところで若は、お帰りか?」
「お前、それいい加減に直せ。西本さんか、課長だぞ」
「だってよ~、ついさあ」
「ついってお前、気持ちはわかるが……あっ、西村さんがお帰りのようだぞ」
その一言で、周りの空気が一変した。ふさいでいた玄関を空けるように、みんな壁の両側に移動する。私も誰かに引っ張られて、壁際に移動させられた。
緊張で重苦しい空気の中、玄関の引き戸がガラリと開き、例の強面イケメンが入ってきた。
「お帰りなさいやし。お疲れ様でございました!」
いかつい男たちが、一斉にピシッと腰を四十五度に曲げる。私はびっくりして、あたふたするしか仕様がなかった。そうすると当然、強面イケメンと目が合ってしまうわけで……。
強面の表情が、訝しくゆがむ。
「この人は、どうしたんだ?」
「あっ、それ! 俺が連れて参りやした! 若、この女をご所望でしたよね!」
徹のその一言で私の胃はすくみ、みんなが一斉にこちらを向いた。ついでに強面の表情が、みるみる怖くなる。
ドカドカと足音荒く徹に近づいた西村が、彼の腹をいきなり殴った。不意を突かれた徹は、驚きに目を見開き尻餅をつく。体をくの字に曲げ、苦悶の表情だ。
「徹! てめえ、何度言ったらわかりやがるんだ! 堅気の人を巻き込むんじゃねえっつってんだろ!」
「すっ、すいません、すいません!」
顔を歪ませながら必死で謝っているのに、西村の表情は怖いままだ。あの時のように、容赦なく徹を足蹴にしている。
怖い、怖いよ! なんでみんな止めないの?
「てめえはよぉ!」
ゲシッガスッと鈍い音が響く。
いやだ、怖いよひどい。
その嫌な音はまだまだ止まりそうにない。
「……や、やめてくださいっ!」
ぎゅっと目を閉じ体に力をこめて、渾身の力をふりしぼり必死で叫んだ。心臓の音がうるさかった。
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