160人が本棚に入れています
本棚に追加
――そうして……。
日曜の朝は、私は西村さんのたくましい腕の中で目を覚ます。
かなり不本意なんだけど、たいてい私の方が、西村さんより先に起きてしまうのだ。仕方がないので私は、彼が起きるまでじっと我慢して固まっている。
だって、きっとわざとだと思うのだけど、西村さんは私の服をベッドから離れた位置にいつのまにか置いてきてしまうし、パジャマだって遠くに放り投げてしまうのだ。
初めての朝を迎えたときはびっくりして、迷ったあげく意を決して、素っ裸でパジャマを取りに行ったんだ。西村さんが眠っていると思ったから。……なのに、しっかり見られちゃってたんだよね、それを。
だからもうそれからは、どんなに恥ずかしくても、おとなしくベッドの中で西村さんが起きて服を取ってきてくれるまで待機することに決めたのだ。
「……ん」
西村さんが身じろいだ。
あ、もうそろそろ目を覚ますのかな?
そう思って彼の顔を見ようと顔を上げた瞬間、西村さんの手が私の背中を撫であげた。
「ひあっ……!」
びっくりして、反射的に変な声が出る。
もうっ!
恥ずかしさから、怒った表情を作り西村さんを見上げた。
「南……?」
きっともう、しっかり起きているのだろうという私の予測に反して、西村さんはまだぼんやりとした夢の中にいるような表情だ。しかも、らしくないむにゃむにゃとした可愛らしい声。
私と目が合うと、西村さんはまた私を腕に抱きなおして瞼を閉じた。
「……良かった。傍にいる……」
夢の中に引きずり込まれる間際のような小さな声に、こんなガタイがいい人なのに庇護欲をそそられてしまい、胸にキュンとした甘い痛みが走った。
「はい……いますよ。ちゃんと」
私もそっと、彼の背中に腕を回した。
少し密着度が増してドキドキする。やっぱり、まだまだちょっと恥ずかしいな。
「……越して……来い」
そう言った後、西村さんは静かな寝息をたて始めた。どうやら、そのまま眠りに引きずり込まれてしまったみたいだ。
『なあ、すぐにとは言わない。来年ならこの家も静かになるし、いいかげん『うん』と言えよ』
これはここ最近、西村さんに言われている言葉だ。なんでも来年辺りには、ここに居候している大部分の人たちが自立する予定らしく、それに合わせて私に、一緒に住もうと言っているのだ。
今はまだ、西村さんと一緒に住むということが私にはピンとこないし早いとも思うのだけど……。
そのうち、その言葉にも抗えなくなるんだろうな。
気持ちよさそうに眠る西村さんを見ながら、私はそんなことを考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!