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軽くパニックになりながらも案内された洗面所で顔を洗い、促されるまま居間に入った。
西村さんの横に、南がちょこんと座っている。
「えっ? 南?」
「千春? 千春も、ここに泊まったの?」
「う……。起きたらなぜかここだった」
「ああ。酔ってて結局家が分からなかったとかで、林がここに連れてきたそうだ」
……あ! じゃあ、あのふわふわとした抱っこされてる感覚は、夢じゃなかったんだ。って、感心してる場合じゃなかった。
「ご迷惑かけて、すみませんでした!」
今は更生してるとはいえ、元はヤクザ屋さんだ。礼儀を欠いたら、きっと怖いめにあうに違いない。私は姿勢を正して、頭を下げた。
「連れて来たのは林だ。それに部屋は余っているから、気にすることはない」
「そうだよ~。だけど千春の飲み過ぎなのは、気になった。二日酔い、大丈夫?」
「まあ……なんとか」
南は、元ヤクザ屋さんの家だというのに、まるで自宅にいるかのようにリラックスしている。くつろぎ過ぎだ。
きっと、来なれてるんだろうな。恋人だもんね……。
「失礼しやす」
小柄な男が、お膳を三つ持って入ってきた。
二つのお膳には、ご飯に味噌汁、卵焼きにひじきの煮物が添えられている。そしてもう一つのお膳には、小さな土鍋と茶わんがのっていた。
「こちらのお方は二日酔いだと聞いたので、雑炊にしやした」
「あっ、ありがとうございます」
びっくりした。気遣ってもらっちゃった。
「すまんな、達也。林はどうした?」
「いつもの日課が終わったようなので、これから飯にしてもらうところです」
「じゃあ、林の分もここに運んでくれ」
「分かりやした」
えっ? 林さんって、私を運んでくれた人がここに来るの? どんな人なんだろう。
「千春、昨夜林さんに送ってもらったんだよね。覚えてる?」
「ううん。ちっとも」
「そっかー。じゃあ、きっと驚くよ」
「えっ?」
驚く?
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