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「家の前まででいいか?」 「ひっ? えっ、いいえ! あのあの、この間の、さくらスーパーの前で降ろして下さい!」 「……さくら? そこは家から離れているんじゃないのか? 遠慮しなくていい」 「え、遠慮なんてしていません! か、買い物! そうですっ。買い物したいんです!」  家まで送ってもらうだなんて冗談じゃないよ。こんな怖い人たちに、住んでるところ知られるなんて絶対にヤバい。 「……そうか。じゃあ林、さくらの前まで頼む」 「かしこまりました」  はあっ。……脱力。  とにかく家を知られる危険性だけは排除できた。あとはもう、なるべくこの人たちに関わらないように気を付けるだけだ。  車は、頼んだ通りにさくらスーパーの前で止まった。私は、ありがとうございましたと礼を言って、ダッシュでスーパーの中へと駆け込んだ。  あ~、怖かった。本当に怖かった。  着いたとたんにお礼の言い逃げで走って来ちゃったけど、いいよね?  通路の真ん中ででっかいため息を吐きながら立ち止まっている私の横を、迷惑そうにカートが横切っていく。 「せっかくだから、買い物でもしていこうかな」  しばらくこのスーパーには立ち寄らない方がいいだろうし。  私は目いっぱい買い物をして、家路へと就いた。  アパートに戻り食材を片付けソファにどかっと座り、ため息を吐いた。  それにしても、今日のあれはいったいなんだったんだろう。  徹とかいう人が、確かこの女をご所望でしたよね、とか言って……。  ご所望……。その意味を考えて、ぞわりと腕に鳥肌が立った。  ああ、いやだ、いやだ。  本気で寒気がしてきて、私は両腕をガシガシとこする。ソファの上で両足を抱え、小さく小さく丸まった。  これからどうなっちゃうんだろうな、私……。 『てめえ、何度言ったらわかりやがるんだ! 堅気の人を巻き込むんじゃねえっつってんだろ!』  ……あっ、そうだった! あの西村とかいう人が指示したんじゃなかったんだった!   肝心な言葉を思い出して、私はおっきな安堵のため息を吐いた。  そうだよ、そうだよ。もう二度と、あんな怖いことは起こらないんだ。だってあの人、堅気の人に迷惑をかけるんじゃないって言って怒ってたんだし……。  堅気……? 堅気って、堅気の人って、そう言ってた!  ていうことは、私の思い込みや勘違いなんかじゃなくて、あの人たちは間違いなく、反社の人たちってことなんだよね?  ……これからは本当に気をつけて、絶対に関わり合わないようにしよう。  あの西村って人がどんなに顔が良くて助けてくれた人だとしても、そんな人たちには近付かないほうがいいに決まっているもの。
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