1人が本棚に入れています
本棚に追加
外ではジリジリと、真夏の太陽が照り付けている午後。
クーラーの効いた涼しい部屋の中で、僕はその小箱を開けていた。
緑色の包装紙にはトナカイやモミの木が描かれて、赤いリボンも掛けられている。クリスマス用のラッピングであり、当然のようにクリスマスプレゼントだった。
ただし、僕がもらったプレゼントではない。僕が渡そうとして、渡しそびれたものだった。
相手は、バイトで知り合った女の子だ。僕よりも少し年下だけど、その店で働き始めたのは僕よりも先であり、アルバイトの先輩に相当する女性だった。
面倒見の良い彼女は、僕にも色々と教えてくれて……。
いつの間にか、僕はすっかり彼女に惚れてしまっていた。
彼女を口説き落とそう、なんて高望みをするつもりはなかった。
それどころか、自分の気持ちを告白する勇気すらなかった。
バイトで一緒の時間を過ごせるだけで幸せだから、クリスマスプレゼントも、あくまでもバイト仲間として渡す予定だった。いつものシフト通りならば、僕も彼女もクリスマスはバイトのはずであり、ちょうど良い機会だと思ったのだ。
ところが……。
「言い忘れてたけど、私、明日は休みだから」
前日になって、彼女はそう言い出した。
「私がいなくても、もう大丈夫だよね?」
「何言ってるんですか、先輩。いつまでもヒヨッ子じゃありませんよ、僕も」
内心を悟られないよう、笑顔の仮面を被りながら答える。
動揺していた僕は、彼女との会話が途切れてしまうのが怖くて、避けたい話題に踏み込んでしまった。
「明日休むのは、クリスマスだから……。デートですか?」
「うん、まあね」
はにかんだような笑みを浮かべて、彼女は続けた。
「相手は外国人なの。大学で英語を専攻してたのが、思わぬところで役に立ったみたい」
「国際的ですね。凄いなあ、英語がペラペラだなんて」
「うーん、そうじゃなくてね。英会話だけなら簡単なんだけど、実際に外人と付き合うとなると、相手の文化的背景まで理解しておく必要があってさ。そういうのって、きちんと勉強してないとわからない点も多くて……」
適当に相槌を打った僕に対して、彼女は真剣に答えてくれる。
この真面目さに僕は惹かれたのだ。改めて実感しながら、僕は少し複雑な気持ちで、彼女自身の恋愛話に耳を傾けるのだった。
あれから三年。
ようやく気持ちも吹っ切れたと思う。その証拠に、こうして平常心のまま、渡せなかったプレゼントも開封できたくらいだ。
立方体の箱から出てきたのは、空色の台座に乗ったガラスの球体。中には透明な液体が詰まっており、小さなクリスマスツリーを背にして、サンタクロースがバンザイしている。
スノードームと呼ばれる置物だった。軽く揺すってやると、雪を模した白い粉が舞い上がり、サンタクロース人形の周りに降り積もっていく。
そういえば。
最後に会話した時、彼女は「オーストラリアへ引っ越すことが決まったの」と言っていた。
オーストラリアは南半球だ。今頃、彼女のところでも雪が降り積もっているのだろうか。
(「真夏に雪が降りつもる」完)
最初のコメントを投稿しよう!