死にたい私はピエロになる

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『お父さんお母さんごめんなさい。  私にはもうこんな方法しか残されていません。  毎朝書いてある机の落書きや、なくなる上履き、  そして殴られたりにはもう耐えられません。』 そう書いた紙を封筒に入れ、私はベランダに出る。 冬の夜中は冷たい風が頬を殴っていくようで苦しい。 早く飛び降りようと手すりに手をかけたとき目の前に涙マークのピエロが現れる。 「楽しい毎日を過ごしたくはないかい?」 「……あなた、誰なの?」 そう私が聞くとピエロ以外の何かに見えるかい?と言われる。 「それで、楽しい毎日を過ごさなくてもいいのかい?」 もう一度そう聞かれる。 「過ごしたいけど……」 私がそう言葉に詰まると、ピエロが自分がかぶっているのと同じ仮面を差し出す。 「これをかぶると毎日笑顔で過ごせるよ。それに、その仮面はほかの人には見えない」 そういってピエロはパっと姿を消してしまった。 ピエロの言葉が気になった私は遺書を机にしまい明日まで生きてみることにした。 次の日の朝、私は騙されたと思ってピエロから渡された仮面をつけて学校に向かう。今日から私はピエロだ。 仮面をつけるとなんだか笑顔になってしまう。 楽しいような気がして少しいいかもしれない。 玄関で見送る母に「今日はずいぶんと機嫌がいいのね」と言われ本当に仮面がほかの人には見えていないんだと実感する。 教室に入るといつも通り机には馬鹿、死ね、エンコーなど悪口がたくさん書かれていた。それを見て悲しいはずなのに涙が出ない。それどころかずっと笑顔のままだった。 私は笑顔のまま落書きを消して席について読書をする。 いつもと違う私の様子に周囲は気持ち悪そうにひそひそ話しているのが聞こえてくる。 しかし、どれだけ心を痛めようが悲しくなろうが涙は出ず、笑顔のままだ。 授業中も終始笑顔で先生からも気味悪がられる。 そうしてみんなから気味悪がられるうちに放課後になった。 放課後になると私をいじめている美希たちに旧校舎のトイレに連れていかれる。 「あんた今日一日ずっと笑ってて気持ち悪いのよ!」 その言葉と同時に美希の平手が私の頬に命中する。 「痛い!」 そう言いながらも私は笑顔のままだった。 「気持ち悪い」 そういわれ三人から殴られる。そして、バケツの水を顔面に受けて息ができなくなる。 それでも私は笑うことしかできない。こんなにも苦しくて辛いのに。 「ほんとにむかつく!」 そういって私の腹に蹴りを入れた美希は取り巻き二人を連れて帰っていった。 それからもいじめは終わることはなかった。何度も死のうと思ったが仮面のせいか死ぬことができない。仮面を取ろうとしても取れることはなかった。 そうして私は笑い続けた。卒業アルバムだって学年で一番の笑顔で写っている。 しかし、私の心は泣いたままでつらいことに変わりはなかった。 でも私には笑うことしかできない。 だから私は今日も笑う。 笑って死にたがっている子を助けに行くんだ。 私のように楽しい毎日を送れるように。
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