1話 人の秘密は知らない方が吉

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「すみません、昼休憩入ります」  スマホを確認すると、松田から社内のカフェテリアでおごるとの連絡が入っていた。こういうところちゃんと気が遣えるというか。コンビニでもいいと言ったのに。 こういうスキルを使えば、ノルマも自力で達成できそうなものなんだが。 ……そんなことを思っても今更約束したものは仕方ないので、デスクの上を最低限整理してからカフェテリアに向かった。 ✳︎ ✳︎ ✳︎ 「いや〜マジで助かった!!」 「どういたしまして」 「多分この辺取れば今月はいける、うん!ありがと!!」 「どういたしまして」  日頃自費なら頼まないステーキランチをご馳走になりましたので。 松田も、俺のアドバイスで糸口は見つけてくれたようなので安心した。相談に乗ったからにはちゃんと突破口を作りたい性分のため、こういう反応をもらえるのがこちらも一番ホッとする。  案件の見直しも昼食も終わってひと段落ついたので、二人でコーヒーを飲みながらもうしばらくゆっくり昼休みを過ごすことにした。熱いうちに一口すする。うん、コーヒー普通に美味い。 「それにしても本当すげぇよな〜お前」 「なにが?」 再度コーヒーを口に運びかけて手が止まる。 「いやだってさ、同じ同期なのに安定感が違いすぎるっていうか。課長とかからの扱いも長年いる社員って感じだし」 そんなに雰囲気違うか? 返答に困ってコーヒーの水面を眺めていると、向こうで松田がニヤリと口角を上げた。 「その顔、お前分かってないな。お前同期の間で完璧コンビって言われてるから」 「……ちょっと待て」 その言い方だとまるで。 「コンビって、まさか安堂さんとまとめて言ってるじゃないだろうな?」 それは余りにも分かってなさすぎる。 「そうだよ。何、まとめられるのが不服?」 「違う違う、俺なんかとまとめていい人間じゃないからあの人は。同じ土俵に並べるな。安堂さんに失礼だろ」 「そっちか……」 急に呆れた目になる松田。こいつこそ分かってないな。すごいのは俺じゃなく、安堂さんだということを。 「完璧ってのは安堂さんレベルを指す言葉だからな。1年目の俺のしくじり、どれだけ完璧にスマートに嫌味なくカバーされたか」 「あ、それ何回も聞いたからパス」 これからがいい話なんだが。 ……まあいい、思い出してくれたのなら。 「ん〜確かに、安堂さんはレベチって感じはするよな〜」 「だろ?」 「安堂さんってそもそもが賢い高身長イケメンとかいう超絶ハイスペックだもんなぁ。それで売上業績1位何回も取ってるとか普通にチートだわ」 「わかる」 よし、どうやら同じ土俵に並ぶおこがましさを理解してくれたようだな。  そう、安堂さんこそ真の完璧だ。 社内でもトップクラスの業績を持ち、部下の面倒見も非常に良い。どんなことでも嫌がらず教えてくれたり、時にはマニュアルまで添えて渡してくれたり。同じことを何度も聞きに行ってるやつを見たことがあるが、一度だって怒っていなかった。それでいて仕事の教え方が異常なほど分かりやすい。やり方も相手の技量に合わせたものを教えている。上司が皆安堂さんだったら全ての企業がホワイトになるのに。  しかし、安堂さんの完璧たる所以はそれだけではないのだ。  男なら絶対に憧れる逞しい体と男前な顔。さらに身長も高い。男がなりたい理想の姿を完全に体現している。それでいて性格も紳士的でスマート。女にはもちろん死ぬほどモテているが、いつも一定の距離感を保っており、ふしだらな話も一切ないので、男の社員からも非常に慕われている。  だからこそ、この人は真の完璧にふさわしい人間なのである。
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