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南波さんは女性社員に囲まれて質問攻めにあっている。俺の周辺には最初少し挨拶に来れただけで、その後は完全に自席に釘付けにされていた。
こういう時の女の結束は本当に心強い。
安堂さんの方も順調のようで、課長や係長と一緒に何やら仕事に関して真面目な話をしているようだった。
ちょっといつもより酒のペースが早そうなのが心配だけど。まぁ俺と飲んで先に潰れたところ見たことないし、多分大丈夫だろ。
「七海さん、次何飲みますか?」
「あー……じゃあハイボールもらいます」
隣に座る後輩の村野が追加の酒を頼んでくれた。俺もさすがに会社では程々にしないとな。
「今日七海さんと仲良くなれそうで、俺嬉しいです」
少し酔っぱらい始めている村野が俺にサラダを回してくれた。
「そうなんですか?」
サラダを取りながら返事をすると、俺の方にぐいっと身を乗り出してきた。
「七海さん最近なんか雰囲気変わったじゃないですか!すごい話しかけやすくなったというか、いや前が怖かったという訳じゃないんですけど!最近すごく頼りやすくて!」
「そう、です?」
「え、七海お前自分で気づいてないの?」
前の席にいた先輩も話に入ってくる。
「最近のお前、一匹狼感抜けてきたから女でもできたのかと思ってたけど」
「やっぱり加藤さんもそう思いますよね!?」
「いや彼女とかいませんから」
「えーその顔で?もったいない!」
顔だけで人を分類するんじゃありません。
俺が少し不貞腐れていると、村野は後輩らしく酒を受け取って回してくれた。
「……こうやって酒の席で気が遣える村野さんこそ、モテそうですけど」
その言葉に村野はポカンとしていた。向かいの加藤さんも同じような顔をしている。
「……七海さんに褒められた」
何でそんなに感動してるんだ。俺はそんな人を褒めないような人間じゃないぞ。
「なんだ七海。お前そういうこと言えるならもっと他のやつらに言ってやれ」
加藤さんが呆れたように笑いながら言う。
「お前みたいなのに褒められれば周りのやる気が上がるからな」
「俺、そんな他人を認めてないみたいな人間に見られてたんですか」
「そうじゃないけど。やっぱお前みたいな人間に褒められるのは特別感出るから」
「分かります!俺今日の言葉で彼女出来る気がしてきましたよ!」
それは言い過ぎでは?
「あの!七海さんに彼女いないって本当ですか!?」
次は斜め前の席に座る長谷さんが、律儀に手を挙げて会話に入ってきた。一回家に帰ってきてから会場に来たのか、可愛らしい私服に、セミロングの髪はゆるやかなウェーブが付いている。
「ここ数年いませんが……?」
「本当ですか!うわー今日飲み会来てよかった!大ニュースですよそれ!」
キャピキャピと喜んでいるのを見て、もしかして余計な情報を与えてしまったのではないかと若干不安になる。
「普段安堂さんとばっかり仲良いから皆七海さん攻略を諦めていたんですよ〜?これは来週から大変ですね?」
「長谷さん、今の話は心の中に閉まっておいてください」
「えーどうしよっかなぁ?」
「長谷さん今日、仕事着から服変えてきたんですね。髪型も似合ってますし、とても可愛いです」
「え゛っ」
口止めにならないかと思って褒めてみたら、顔を真っ赤にして固まってしまった。その様子を見て、加藤さんと村野は気の毒そうな顔をする。
「七海、その特別感の使い方はやめとけ」
「俺が女なら完全に堕ちますね」
「すみません……」
そのまま2人と会話しながら南波さんの方を見たら、向こうもたまたまこちらの方を見ていた。
『ヘ・ル・プ!』
無理矢理笑顔を浮かべている南波さんが、口パクで助けを求めていた。今そっち行ったら、お前と女の両方の餌食になるだろうが。
行くわけがない。
『が・ん・ば・れ』
口パクで応援だけして会話に戻る。
「お前、今日は安堂のとこ行かなくていいのか?」
加藤さんがからかうような口調で聞いてきた。
「あの卓には入っていけないでしょう。普段飲みに行ってますし、別に今日はいいです」
「向こうはそうでもなさそうだが?」
そう言われて安堂さんの方を見ると、俺たちのいる卓を見ていた。目が合った途端、慌てて顔を逸らされる。
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