2話 上司の声は神の声

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2話 上司の声は神の声

「今度の企画の決裁用資料、俺なりにまとめて安堂さんのフォルダに入れときました。使えそうでしたら使ってください」 「あの、ずっと気になってたんですけど顧客データまとめるエクセル、この辺マクロ組んでもいいですか。その方が効率いいので」 「安堂さん、俺も3年目なので営業外の業務で引き継げる仕事あればどんどん教えてください」 「お、おう。ありがとう……?」  翌日。 俺は昨日の決意を速やかに実行した。 朝一、俺がしたことは今週から来週までの業務内容を精査して所要時間を算出し、スケジュールを組むことだった。そうすることで、無理なく安堂さんの手伝いができる。  今までももちろん真面目に働いていたが、突然の気持ちの切り替えように、安堂さん以外の社員も目を丸くしていた。課長辺りは「あの七海くんがここまでやる気を出すなんて良い傾向だ」と嬉しそうにしていたのでまあ良しとする。 「七海、今日お前どうした?そんな張り切って働くキャラじゃなくね?」 他の人が誰も突っ込まなかったことにも、平気で突っ込んでいけるのが松田のすごさだ。だが、残念ながら答えてやる気はない。さすがにあの出来事を話すのは、安堂さんの名誉に関わる。 「3年目になるし、そろそろ社員として一人前に働こうと思っただけだよ」 「うえぇ、真面目くんかよお前」 こいつはもう少し真面目になれ。 「お前はいい加減自力でノルマ達成しろ」 「あれ?もしかしてこれ、しばらく俺助けてもらえない?」 「もともとそんな予定はない」 お前のノルマよりも安堂さんの過労の方が優先度高いに決まってる。 1年目に受けた恩、少しはこれで返せる。 今日から2週間やってやるぞ。 ✳︎ ✳︎ ✳︎  に、2週間、めちゃくちゃ疲れた……。 分かっていたけど、安堂さんの仕事量は非常に多かった。安堂さんの仕事量が減る代わりに、当たり前だがその分俺が疲れた。 「ふぅ……」 それでも何とか自分の仕事も消化できている。その点はちゃんと計算できていた。これで安堂さんの直近の仕事はかなり減らせたから、俺も頑張るペースは少し落としていい、はず。 斜め前に座る安堵さんにそっと目をやる。 間違いなく安堂さんの仕事量は減らした。その手応えは十分ある。問題は、最近安堂さんの様子がおかしいことだ。 なんでだ。 ストレスの原因は仕事じゃなかったのか?いや、最初のうちはかなり効果があるように見えた。それが一転して、ここ最近変なのだ。明らかに何度もぼーっとしていたり、仕事を中断して休憩することが増えたり。精彩を欠いていて安堂さんらしくない。 手元にあるチェックした書類を持って、安堂さんの席の前まで移動する。 「安堂さん、これ終わりました」 「ああ…………」 そしてこれだ。 「………………あの」 「ああ悪い、書類は大丈夫だ」 なぜか無言で見られることが増えた。 書類は、ねぇ。言い方が妙に引っかかるのも気になる。 俺のストレスフリー大作戦は失敗だったのかな。いやまぁ、覚えた仕事自体は俺のスキルになるからいいんだけどさ。 でも、もし全く安堂さんのためになってなかったのなら…………割とへこむ。  でもさすがに、貢献度ゼロってことはないだろ。負担は確実に減っているし。仕事外に悩みがあるなら、俺にはどうしようも出来んし。結局、俺は俺にできることをするだけだ。
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