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ひとひらの不幸
オクトラ村には、一つの言い伝えがある。
村の中央に生えている巨大な大樹、オクトラの黄金の葉を持っていると幸せになれるという伝説が。
「おお、今年も降ってきた!」
秋。その木の巨大さとは裏腹に、掌に乗るくらいの小さな黄金の木の葉が、村中に降り積もることになる季節。この時期の村の子供達は大忙しだ。村中に散らばったこの金色の葉っぱを、みんなで集めてひとまとめにしなければいけないのだから。
まるで硝子のように硬く、それでいてふんわりと軽い不思議な葉。持っていれば幸運を呼ぶお守りになり、売っても大きな財産となる。この村の守り神のものとされている木の葉であったが、金銭的に困っている者ならば村の外で売って金品に替えてもいいというのが暗黙の了解であった。実際、僕――クレフの家も、大型の雪かき機を買うお金がどうしても足らなかった時、木の葉を何枚か売らせて貰ったことがあったりするのだ。
裏を返せば。家に何枚も木の葉を貯めている家ほど、裕福の象徴であるとも言えるのである。それだけ長いこと、この資源の乏しい村であっても木の葉を売らずに生活できているということなのだから。
「エル、急ぐぞ!どっちが一番多く木の葉を集めるか競争だかんな!」
「ま、待ってよクレフ!足速いんだから~」
そんな僕の家は、村の中では中堅どころの地位であり、多少裕福層には遠慮しなければいけない立場であったりする。この村では明確に身分の差があるわけではないものの、暗黙の了解でなんとなく家の地位が決まっており、大人達はひたすらそれに殉じているのだ。自分より高い地位の家の人にはヘイコラと頭を下げ、逆に低い地位の家にはやたら横柄に振舞うことが多い。父さんと母さんのことは大好きだが、その点だけはどうしても好きになれないでいる僕だった。多分それは、エルも同じだろう。
そんな大人の事情など、多くの子供達には関係ない。友達になりたい人間と友達になり、分け隔てなく遊ぶ方がよっぽど楽しい。――それは多分、一番位置の高い村長の村の息子であるエルがまったく偉ぶらず、僕達に親切に振舞ってくれるというのも大きいのだろう。
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