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事件が起きたのは、黄金の木の葉集めをしてみんなに均等に配った――その一週間後のことである。
「村長の家から、木の葉が盗まれたぞ!」
朝起きてすぐ、村中が大騒ぎになっていた。僕は仰天した。村の広場に、しょんぼりと頭を下げているエル、怒り狂っているその父親の村長。そして、正座して座らされているローマンとその両親がいて、みんながそれを取り囲んでいるからである。
「え、エル!何があったんだ、まるで晒し挙げじゃないか!」
「く、クレフ……」
エルは泣き出しそうな顔で口を開き、何かを言いかけて――しかしふるふると首を振るにに留めた。明らかに様子がおかしい。僕が戸惑っていると、エルの父親である村長が代わりに怒鳴るように言ったのだった。
「この、最下層の一家が!我が家から、オクトラの木の葉を盗みおったのだ!」
話は、こうだった。
村長の家は、長年木の葉を売らずにコレクションしており、倉庫に大切に保管していたのだという。しかし、昨夜その倉庫の鍵が何者かに開けられて、木の葉が一枚盗まれるという事件が起きた。慌てて村中を探したところ、木の葉を配られてすぐに売り払ったに違いないはずの貧しいローマンの家が、まだ木の葉を所持していたことが発覚。きっと村長の家から盗んだに違いない、とされて、今こうして晒しあげられているというわけらしい。
「ちょ、ちょっと待てよ!」
僕は声を上げた。
「盗んだ証拠は?誰かがそれを見てたってのか?それもないのに、持ってただけで犯人と決め付けるなんて横暴だ!」
「駄目よ、クレフ!」
そんな僕を母が制する。その顔は、初めて見るほど緊張で強張っていた。
「子供同士で遊ぶだけなら目を瞑るけど……今回は駄目。村全体の掟の問題で、家の問題なの。村長はこの村の最高権力者、絶対に逆らってはいけないのよ。木の葉の独占は即ち富の独占であり、神様の威光の独占。平等に分配されたのは貴方も見たはず。それを盗むことがこの村でどれほど大きな罪になるか、貴方だってわからないはずがないでしょう!?」
「だから言ってるんだよ!」
僕達の家は、村長に意見できるほど高い地位にはない。そんなことは理解している。でも、だからといって納得できるはずもなかった。このままでは、彼等は本当に犯人と決め付けられてしまう。そして、そうなったら最後待っているのは恐ろしい罰だ。
この村で、木の葉は幸福の象徴。だからこそ。
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