ひとひらの不幸

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 それに関する掟を破った者は、同等の不幸で支払わなければいけない。その対価を決めるのは、掟を破られたことで傷つけられた者。そう決まっているのだった。 「お許しを、村長様……!」  ボロボロの服をまとったローマンのお父さんが、必死で土下座して許しを乞う。 「私も家内も息子も、木の葉にまつわる掟は重々承知しております。よりにもよって村長のお宅から盗むような真似をするはずなどございません……!確かに、我が家は木の葉を売った記憶があり、一枚記憶にあるよりも多いような気がしたのは事実です。でも、それは断じて盗んだものではないのです。違和感を覚えつつもその報告を怠ったのは申し訳なく思います、ですが……!」 「ええい黙れ黙れっ!」 「ぎゃあっ!」  必死で釈明する男性を、思いきり靴で蹴り上げる村長。ローマンのお父さんと違って立派な体躯を、金ぴかの服で包んでいる。その落差が、あまりにも辛かった。 「反省の機会を与えているのに罪を認めぬこの態度、断じて許すことはできぬ!お前達は今夜一晩中、一睡もせずにオクトラの神に祈れ。それが罰であるぞ!」 「そ、そんな!」  祈り刑。それは、一晩中、オクトラの大樹の元で祈り続けるというこの村特有の私刑だった。一見すると簡単そうに見えるがとんでもない。人間は一晩徹夜するだけでふらふらになってしまうイキモノなのに、外で一睡もせず飲まず食わず放置されるのである。しかも、よりにもよってこの時期。黄金の木の葉が降り積もるのは、まさに秋の終わりのことなのである。その日を境に一気に冬へ入り、この近隣の地域は恐ろしく冷え込むことになる。ましてや、今夜は雪が降るのではという予報も出ているほどだ。  そんな中。ボロきれしか身に纏えない男女と、まだ十歳のローマン。到底耐えきれるとは思えなかった。実質、死刑も同然である。 「駄目だよ、そんなことさせたら死んじゃうだろ!」 「クレフ、静かになさい!村長に逆らってはだめ!」 「じゃあ、友達が殺されるのを黙って見てろってのかよ!こんなのおかしい、絶対おかしい!」  僕が叫ぶ中、エルは唇を噛み締めて押し黙り、ローマンは悲しそうな目でじっと僕を見つめた。そして、ただ一人一家を庇おうとする僕に対し、こう言ったのである。 「……ありがとう、クレフ。僕、君と友達になれて、幸せだったよ」  そして――それが僕が、ローマンと交わした最後の会話となってしまったのだ。  その夜彼と両親は祈り刑に処され――その夜の豪雪にもろに晒され。翌朝、揃って凍死しているのが見つかったのである。
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