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ああ、と僕は項垂れた。みんな、どこかでおかしいと思っていたのだと。去年だけならともかく、同じ事が今年も起きた。そもそも、普通なら一度盗難にあったなら、倉庫の鍵はもっと強固なものにするか、ガードマンでも置いて監視を徹底させるはず。なのに、村長の家はそれをしていない。
まるで盗みなど、最初からなかったと知っているように。
「木の葉に纏わる掟を破るのは重罪。人を殺すのも重罪。なら」
エルははっきりと言った。
「殺されるのは彼女たちの一家ではなく、僕と父さんです。父さん、僕と神様に祈りましょう。今夜一晩雪の中で過ごして、生き残ることができるように」
「な、なな、何を、エル……!」
「去年、父さんが木の葉を使ってローマンの家族を陥れたかもしれないことに気づいていて、僕は何も言えなかった。父さんが怖くて友達を見殺しにしてしまった……僕も人殺しです。罪は一緒に償います。それとも」
彼は死んだ目で、父親をじいっとねめつける。その瞳にあるのは、たたただ虚無。彼はこの一年――どれほど悩み苦しみ、このことを告発する決意をしたのだろうか。
「それとも父さんは村長だから……自分だけは許されて当然だなんて、そんなこと思ってないですよね?」
なんてことだろう。僕はあまりのことに、その場で座り込むことしかできなかった。
この村の仕組みは、確かに歪んではいる。目に見えない格差があるのもおかしいし、実質村長の独裁政治なのも勿論おかしい。でも。
それでも、あの黄金の木の葉が降ってこなければ。それをみんなが神聖視しなければ。それにまつわるとんでもない掟などなければ――僕は今でも、大切な友達を失わずに済んだのだろうかと思わずにはいられないのだ。
――なあ、オクトラの神様とやら。もし本当にいるのなら、教えてくれよ。
心に降り積もるのは、何処にも行けぬ悔恨の情。
――あんたは本当に、俺達に祝福とやらを与えたかったのか?それとも。
果たして、本当の不幸とは何であったのか。
答えは未だ、出そうにはない。
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