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最近テレビに出ずっぱりだったタレント、百合川橙子が交通事故に巻き込まれた。
トラックに轢かれて頭を強く打ち、意識不明の重体。メディア界において話題の人物だっただけあって、このことは世に大きく報道された。
ワイドショーでは繰り返し、時間をじっくりかけて事故の詳細を伝え、新聞やインターネットの記事も連日トップニュースとして扱った。
ここまで騒ぎが大きくなったのは、有名人が事故に巻き込まれたから、というだけではない。他に一つ要因がある。
「お姉ちゃんは……私を守るために、事故に巻き込まれたんです。車に轢かれそうになっていた私を突き飛ばし、身代わりになってくれたんです」
橙子の高校生の妹、桃子の涙ながらの言葉が、一層世間の目をひいたのだった。
橙子はテレビに連日出ていたが、世間からの好感度はずっと低かった。テレビ側はそれを分かっていながらも、話題性だけを求めて彼女を起用していた。
例えば彼女は、自分が嫌いだと思った人には、どんな大御所の人でもすぐに「嫌い」と言う。食レポも、自分の好みに合わなかったら堂々と「まずい」と言い、重大な時事ニュースには自分基準のひどく軽い言葉を並べ、周りの人を困らせる。
彼女の率直なコメント……別の視点から見れば、ある意味軽率で自己中心的な、あっという間に炎上してしまいそうな物言いは、その通り人々の反感を買いがちだった。彼女がテレビに出る日には、ネット中に彼女に対する批判の言葉が溢れかえっていた。いや、批判というよりも誹謗中傷だった。
そんな彼女が起こした、自分の命を顧みずに妹を助けたという行為。それは世間にとっては信じられない出来事で、意外性があった。世間が描いていた百合川橙子のイメージ図とはかけ離れていたのだ。
一転、ネット上には賛美の言葉が並ぶ。連日に渡る橙子の事故の報道は、厭われることなく、多くの人に歓迎された。
単に橙子が事故に巻き込まれた、というだけだったら、それが歓迎されたかは分からない。しかし、橙子が妹を助けたという事実は、人々の胸に深く刺さったようだった。
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