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魔王城
「俺は死神を倒す。」
その目には他の勇者とは違い光が宿っていた。
その言葉に私の息が少し乱れる。
「……っ。」
「お前はこの事を後世に記してくれっ!」
輝樹の声が二人だけのだだっ広く薄暗い王間に響いて消えていった。
その声とは真逆に離れて行く彼の足音が絶え間なく響き渡る。
私は彼の足音が離れた事を見計らって反対方向に歩き出した。
口には微笑み。少し歩いたところで鼻歌交じりに回転してみた。
靴の踵がカッカッカッとリズム良く鳴る。
出口の目の前で止まり、くるりと振り返った。
そして、誰にも聞こえないほどの声で告げる。
「後世に記す…かぁ。いつまでも君は優しかったよね。フフッ。」
笑みが溢れ出してくる。狂気の笑みを讃えた唇からはまるで凶器のように尖り切った言葉が放たれた。
「そう。君は優しかった。そして、鈍感だった。いいだろう。後世への日記とやらには最初で最後の反逆者の名前でも刻んどいてやるよ。」
私は開かれていた重々しい扉に手をかけた。
見た目とは裏腹に扉は私の意思に逆らうことなくスムーズに閉じていく。
私は二度と入ることのない城内を見ながら、胸に手をあて、執事らしく物々しいお辞儀をする。
「まぁ、見ることはないだろうけどね。」
呟くと同時に扉が大きな音を立てて閉まった。
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