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聞き間違えの重複
「あいつ、イキっててウザい」
クラスのボス、田町くんが担任に向かって言った。
僕のママは田町くんのことをガキ大将だって笑ってたけど、このカースト制度はそんな生易しいもんじゃない。
僕は自分の席でそっと呟いた。
「生きててウザいって聞こえた」
田町くんには聞こえないぐらいの小さな声だったのに、隣の席の桃瀬くんには僕が何か言っているというのが解ったみたいだ。
「今、来ててウザいって言った?」
桃瀬くんが耳打ちする。
桃瀬くんの声は不思議な心地良い音で耳がくすぐったくなる。
「誰に向かって言ったの?」
いつまでもこの声を聞いていたかったけど、流石に質問を無視するのは桃瀬くんに悪い。
「ううん。違うよ、桃瀬くん。」
「んじゃ、なんて言ったの?」
そこで僕はハッとした。
ここで『生きててウザい』なんて言ったら桃瀬くんはどう思うだろうか。
僕だけとても嫌な奴じゃ無いか?
来ててウザいならともかく、『生きる』なんて。
「いや、僕も聞き間違えたんだよ」
「ふぅん。そうなんだ」
良かった。桃瀬くんは興味を失ったようだった。
僕はそっと目を細めた。
あわよくばもっと桃瀬くんと話していたかった。
そう思ってしまっていたことに気付き、慌てて頭を振った。
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