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 珍しく名前を覚えたくなる相手に出会った。男ではない。彼女の名は「しずか」といった。  名前に反して、しずかはおしゃべりな子だった。  最初はインターネット上の出会い系サイトで見かけ、メッセージでやり取りしている間に意気投合し、ふたりで会うことになった。  ホテルのベッドの中、裸で抱き合ったりお互いの全身を子犬みたいにチロチロと舐め合ったりもしてみたが、それよりも会って話をすることの方が多くなった。 「あたし虐待されてたんですよ」と、しずかは語る。  まるで昨日の天気の話でもするように淡々と。むしろ、ところどころにユーモアさえ交えつつ。実父から毎日のように性的虐待を受け、学校でも男友達に強引に迫られると断ることができずに何人もの男たちに体を許し続けたのだと。 「きっと、あたしって気が弱いんでしょうね。断れば相手が傷ついちゃうと思うと、何も言えなくなっちゃって」  嘘をついているようには思えなかった。ほんのちょっとだけ「かわいそうだな」とも思った。人に無関心な私にしては珍しい感情だった。
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