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 しずかとの一件があってから、私の人生は再び大きな転機を迎えた。何か「人生の大きな目的」のようなものを手に入れたのだ。  この世界には、心に傷を持ったまま生きながらえている者が大勢いる。大なり小なりという意味では、誰もが傷負人(きずおいびと)なのだ。  しずかは、どこからか心に傷を負った者たちを連れてきた。それが彼女に与えられた特殊能力だった。直接会って会話すると(あるいは会話せずとも、黙ったままその場の雰囲気で)自分と似たような波長を持つ者を見わけることができた。  私に与えられた役目は、そのような傷負人たちの心を癒やしてやること。「癒やす」という表現はおこがましいかもしれないが、(いつく)しみを持って接すること。心だけではない。体も。  ある意味で、それは私がこれまで行ってきたとの同じ行為だった。ただ、単なる快楽が目的ではなくなった。挿入まで進まないことも多い。  時に抱きしめ。時に全身を舐め回し。時に黙って相手の言葉に耳を傾ける。それだけで傷負人たちは回復していった。1度で回復しきれぬ時には、2度、3度と。何度もその行為を繰り返してやることで、いずれは再び元気になり、社会へと飛び立ってゆく。
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