3

1/2
前へ
/16ページ
次へ

3

 子供の頃からずっとそうだった。人に関心の持てない子だった。 「何が楽しくて生きているの?」と、よく問われた。  私自身、何が楽しくて生きているのかよくわからなかった。いつ終わっても構わない人生だった。  それが、ある日を境に変化した。地中に潜っていた幼虫が地上に()い出て木に止まり羽化するがごとく。私はセミだったのだ。  きっかけは男。男を知った瞬間、人生の意味も知った。男に抱かれている時だけは「生きている」という実感を持てた。それ以外は全て無に等しい。  会社に通い、働き、金を稼ぐ。全ては快感のため。心の底から安堵できるわずか数時間のために、残り全ての時間がある。睡眠すら私を満足させてはくれない。私を満たしてくれるのは、体の中に別の生き物を受け入れている行為のみ。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加