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我輩は馬鹿である。名を秀明と言う。自堕落な生活を送っていた若い頃、親に勘当され、帰る場所がなくなった我輩は、山に住む書の達人に住み込みで弟子入りした。だが、その師匠、実は狸だったのだ。人生とは滑稽なものだ。
何を言っているのか分からないだろう。我輩も何を言っているのか分からない。狐につままれた気分と言いたい所だが、つままれたのは狸なのだから、これまた滑稽だ。この話を山に遭難した者の何人かに話してみたが変な人を見る目であしらわれた。
狸の師匠に教わった事は今でも鮮明に覚えている。書の書き方、鳥を射抜く時の弓の引き方、感謝を忘れぬ心。相手が人か狸かは問題ではない。ひと月程の出来事であったが、師匠が我輩に注いで頂いた愛情は、今でも我輩の心に残っている。
狸が人に化けるように、人も誰かになれるのかもしれない。これまた何を言っているのか分からないだろうが、師匠が我輩の前から去った後、ずっと考えていた事だ。人は人にに中傷されるのを避ける為に、化けの革を着る。
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