シン・古今馬鹿集

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全員、全力で走ったので息は切れ切れとなり、我輩も師匠も村人達も地べたに這いつくばる勢いでくたばっている。いい大人が何をしているのかと笑われそうである。しかも、師匠の提案で走る道中、着物も草履も脱ぎ捨て、お互いふんどし一丁になっている。 村人の一人が言う。 「……これは困った。どちらが本物か分からなくなったではないか」 我輩と師匠はふんどし一丁のまま尋問にかけられたが、お互いだんまりを決め込んだ。困った村人達は、連れ戻して村長に相談しようと言うので、また村長の家まで連れ戻されるのかと思いきや、連れて行かれたのは偽師匠が書を披露していた祭りの広場であった。 我輩と師匠が足かせを付けられ並ばされていると、祭りもあって村人全員が集まったのではと思う程、野次馬でごった返しだした。そこには何故かまだ偽師匠もいた。人の命がかかっているというのに、祭りの見せ物のようになっているではないか。 野次馬をかき分け村長が出て来た。 「村の者、聞きなさい。驚く事にここに秀明が二人いるが、一人は秀明に化けた狸である。本物の秀明は狸をかくまっておるようじゃが、見ての通り見分けが付かん。そこでわしはひらめいた。本当の秀明なら書の達人なので書の腕前で見分けが付くであろう」
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