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山に住んで早いもので、もう十年になる。ほとんど人と会う事はないが、少しも淋しくはない。と言うより我輩結構忙しいのだ。村の生活とは違って、山では自給自足しなければ食べてはいけない。毎日鳥を狩る事で飢えをしのぐ。
今朝も日の出と共に起きて、綺麗に布団を畳み、矢を磨き、玄関を出た。と思ったら目の前に遭難者らしき若者が立っていた。これは面倒だと思った我輩、聞かれる前に山道はあちらだと指差した。すると、若者指差した方向には目もくれず、懐から短刀を抜いた。
「村の長老からお達しが出た。山の屋敷で狸が出るので始末しろと。お主、たぬきか?」
「そう言うお主こそ、我輩が狸に見えるのか?」
「狸に見えぬから聞いておるのだ。見た目が狸なら聞ぬであろう」
「それもそうだ。しかし、我輩が狸だとしても狸ですとは言わぬであろう」
「それもそうだ。では、人間だと言う証拠を見せてみよ」
「それはどう言った証拠なのだ?」
「……それは私にも分からぬ」
おそらく狸の師匠の事を言ってるのだろうが、田舎の村だけあって伝わりが遅い。十年も前の話が今になって伝わるとは。それにこの若者は、みなが嫌がるしょうもない仕事を小銭欲しさに手を挙げた馬鹿であろう。どうも話が通じない。
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