シン・古今馬鹿集

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 馬鹿はほっといて、人だかりをかき分け進んだ。すると現れたのは、見た事もない大きな紙の上で、見た事もない大きな筆を操る爺さんであった。その爺さん、これまた見た事もない大きな書を書いているではないか。頭はつるつると光っている。 師匠だった。あまりに突然の再会に声を出す事すら出来なかった。師匠が書き終えると人々は縦横無尽に躍動する書を誉め称えた。感極まった我輩、師匠の元に駆け寄り感謝の言葉を伝えた。その、つもりだったが、やはり声が出なかった。 師匠の方はと言うと、突然現れた弟子に驚いている様子だった。化けた姿とは言え、十年の歳月が流れた師匠の顔は皺が一層深く刻まれている。狸なのに十年以上も生きていると言う事は、人間で言うと六十歳くらいに違いない。 そう、師匠が生きていてくれた事自体が嬉しいのだ。言葉の代わりに感謝の気持ちは目力で表し、師匠の目をじっと見た。すると、師匠と共に過ごした日々が走馬灯のように甦るではないか。しかし、あまり見つめすぎたせいか観衆は静まり、師匠はついに口を開いた。
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