シン・古今馬鹿集

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「お主もそう思うか。言わずとも分かる。くだらぬ書を書いてしまった」 師匠はそう言うと、せっかく書いた書を びりびりと破きだした。半紙なら一回で破けるが、大きな和紙なので破っては束ねて破っては束ねて、その様子は猟奇的に見え、観衆は見てはいけない物を見るめ目で解散していった。 「お変わりありませんね、師匠」 「何?師匠だと?弟子は取っておらん」 「……そんな事はございません。十年前、弟子にして頂きました」 「可笑しな事を言う。十年前と言えば、わしが旅に出た後だ。しかし、確かに旅に出る前、弟子を取った。村が百年の祭と聞いて寄ったのだが、弟子に家の留守を任せているのであまり長居もできん。そろそろ山に帰る頃だ」 「……と、言う事は師匠ではないと?」 「だからそう言っておるだろう。しかし、お主の担いでいる弓は弟子にやった物とよく似ておる」 我輩、考えた。この爺さん、師匠にそっくりだが師匠ではない。爺さんの話を鵜呑みにすると、その昔、師匠が人間に化けて弟子入りしたのがこの爺さんのようだ。爺さんが旅に出たのをいい事に、師匠は爺さんに化けて家の主として振る舞い、そこへ我輩が訪れ……。
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