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偽物の師匠との再会もそこそこに、馬鹿に急かされ村長の家を訪れた。広々した部屋に馬鹿と一緒に通され、如何にも村長と言う雰囲気の爺さんが上座に座っていた。考えた事もなかったが、昔は村に長年住んでいたと言うのに村長に会うのは初めてである。
「おお、秀明ではないか。久しぶりじゃの。元気にしておったか?」
「はて、久しぶりも何も村長とは今会ったのが初めてですが。しかし、何ゆえ我輩の名をご存知なのでしょうか?」
「何を訳の分からぬ事を言うておる。先月にも会ったであろう。さては、わしをからかっておるな」
そう言うと村長は、がははと大きく笑ったかと思うと、今度はきびすを返すように馬鹿に向かって真剣な顔で言った。
「おい、使いの者。見た所、狸は仕留めておらんではないか。一日も経たぬ内に帰ってきおって。さては、わしの機嫌を取る為に秀明を寄越したな。秀明の爪の垢でも煎じて飲むがいい」
馬鹿は怪訝な表情で、我輩と村長を交互に見るや否や、この者は何者かと村長に聞いた。
「これ、失礼な事を言うでない。秀明を知らぬとはお主は本当に馬鹿であるな。物知らずもいい所じゃ。……しょうがないので教えてやろう。秀明は村で一番の書の達人である」
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