シン・古今馬鹿集

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 馬鹿はまたしても怪訝な表情で首を傾げたかと思うと村長に近寄り、何やら耳打ちした。すると、今度は村長が怪訝な表情で我輩と馬鹿を交互に見比べ、耳打ちで返した。何が何やら分からぬまま馬鹿は部屋を出て行き、村長はだんまりを決め込んだ。  しばらくの沈黙が流れた後、馬鹿が帰ってきて、その後ろにもう一人の我輩がいた。何を言っているのか分からないだろうが、我輩も何を言っているのか分からない。その光景は異様で、我輩も村長も、もう一人の我輩も口をあんぐりさせた。 馬鹿が口を開く。 「私の言った通りでしょう。やはり、その者は人間に化けた狸です」 村長が口を開く。 「この年になって、これほど驚く事があるとは思わなかった。……しかし、わしにはどちらが本物の秀明か見分けがつかん。狸が人に化けるとは本物であったのだな」 馬鹿と村長は訳が分からぬままであったろうが、我輩ともう一人の我輩だけは状況が掴めたようだった。いや、もう一人の我輩ではない、どう考えても師匠である。十年ぶりの再会は唐突で、希有なものである。師匠も気まずそうに我輩の顔をあまり見ないでいる。
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