シン・古今馬鹿集

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 その後は村人が何人か来て、元々家にいた方が本物か、それとも山にいた方が本物か話し合っていた。意見は分かれるかと思われたが、満場一致で元々家にいた方が本物であろうという結論に至った。師匠はその間何も話さず、困った顔をするばかり。 村人の話を聞いていると、どうやら師匠は村に降りた十年前、書の腕前を村中に広めて、我輩の馬鹿の汚名から一躍、書の達人として名を轟かしていたらしい。その甲斐あって信頼は厚く、どう考えても山にいた方が狸であろうと言う結論に至ったようだ。  そこまでは、別に狸と思われてもどうでも良かったのだが、よく考えると狸を仕留めるのが村長の目的なのだから、我輩はこのままでは殺されると悟った。これは大変である。師匠の顔を見ると、何やら開いたふすまをちらちら見て目で合図している。 師匠が我輩に化けているからなのか、あうんの呼吸ですぐに意図が分かり、我輩と師匠はほとんど同時に開いたふすまに駆け出した。突然の出来事で意表を突かれたのか、村人達は追いかけるのが遅れて、結局捕まったのは村長の家から一里程離れた所だった。
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