00 魔法少女すずな 爆誕

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00 魔法少女すずな 爆誕

   ボクは精霊。名前はまだない。  姿も曖昧な光の塊で、人格もまた未形成。  そんなボクの目的はただ一つ。  人間界のバランスを正常に保つこと。  その為には、誕生の世界である高天原(たかあまのはら)と死者の世界である月黄泉国(つくよみのくに)、その二つの世界が一定のバランスをもって人間界の裏側にあることが大切なのだ。  でも、ある時からそのバランスが崩れ始めた。  最初は些細だったかもしれない。  でも理由は分からないが、月黄泉国(つくよみのくに)の影響が大きくなり、不安定な、負の芽が生えた人々が増えていった。  高天原(たかあまのはら)は最初は傍観していた。  しかし時が経つにつれ、それが到底許容できるモノではないと理解した。  このままでは人間界が悪い方向へ進んでしまう、と。  その原因を探るべく、高天原(たかあまのはら)から今さっき人間界にボクが発生したのだ。  それじゃぁ早速原因究明スタート、といきたいのだけれどそうは問屋は卸してくれない。  なにせボクは高天原(たかあまのはら)から生まれた精霊である。  言った通り名前もなければ形もない。  ボクが人間界に影響を与えるにはそこに住まう人と契約し、その人をかえしてでないとさらに人間界のバランスが崩れてしまうのだ。  まったく誕生とともに面倒な仕事を押しつけられたものだと思う。  けれどコレがボクの役目なのだから果たす以外に選択肢はないのだ。  よく晴れたうららかな快晴を、ふわふわと泳ぐように漂い、地上を観察する。  背を曲げて歩くサラリーマン、疲れた顔をした主婦、元気なく歩く子供達。  ぞっとしない思いを胸に、契約できそうな人を探す。  もちろん契約は誰とでもできるわけじゃない。  精霊が見えるほどの質の高いオーラを宿し、精霊の力を操れるほど強靱な精神を持ち、人目を惹くような愛らしい容姿をし、なおかつ幼くなくて、それでいて少女でなければならない。  そう、だって契約者は魔法少女になるのだから。  魔法少女になって人間界を救うのだから。  ふと、住宅地を歩く一人の少女が気になった。  小柄な体型に整った目鼻立ち。全身からエネルギッシュな赤いオーラを放ち、おそらく胸はBカップ。黄色い帽子とランドセルを背負っていることから確実に小学生だろう。  これはいける。  そう思ってビュンとすっ飛んで向かう。  目線の先で止まって様子を窺うと、やっぱりこの少女も暗い顔をしていた。  この契約はきっとこの子の為にもなろうだろう。  そう確信して声をかけた。 「ねぇボクと契約して魔法少女にならない?」  けれど返答はなかった。  待てど暮らせど無視されて、あまつさえボクの横をそのまま素通りした。  候補者だと思ったけれどもしかして聞こえてないのか。 「もしもーし聞こえてる……?」  返答は依然としてなし。  容姿と年齢は最適だったのに、残念ながら素質がなかった。 「あーあ願い事を一つ聞くから誰が手っ取り早く魔法少女になってくれないかなぁ」 「ホント?」  応えたのは少女ではない。  ボクの後ろに一人の別の少女が立っていた。身長は150センチ前後だろうか。淡いセミロングの髪。それを束ねて頭の左右に作った小ぶりのお団子。丸っこい輪郭に柔らかそうな白い頬っぺた。少女然とした愛らしいクリッとした瞳と未成熟なスッと線の通った小鼻がその少女の幼さを強調していた。ちなみに胸はDカップはありそうだ。いいねロリ巨乳。  ボクの姿が見える、のも気に入ったがそれよりも少女の放っているオーラに驚いた。  神々しいほどに光り輝く橙色のオーラ。  少女は小さい鈴を転がすような可愛らしい声で食い気味に続けた。 「ねぇねぇ願い事って何でも良いの? 何でも叶うの?」 「う、うん。その代わり契約して魔法少女になって――」 「わかった! 契約するぅ!」  いいねロリ巨乳。話が早い。 「それじゃぁ右手でボクの身体を触って」 「こう?」  汚れを知らない小さな手が、ボクの光の塊の中に入ってくる。  その手から伝うオーラにボクのオーラを混ぜて契約完了。 「もう手を抜いてもいいよ」 「なんかすぐ終わったね。で、願い事なんだけど――」 「何でも言っていいよ。好きな子と両想いになりたいでも、頭が良くなりたいでも何でもいいよ」 「うーん、それじゃぁねぇ……」  細い指を薄い口元に当てて頭を傾げる。なんとも可愛らしい動作であったが次の瞬間、満面の笑みで。 「タバコとお酒がいっぱいほしい!」 「……え?」  時間が止まった。ボクも止まった。  空気が固まった。思考も固まった。  そうこうしている間にその願いによりボクの身体は丸っこい小動物へと変化し、精霊としての真名がキンムギに決定してしまったのである。  
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