03 キンムギは見つけたい。

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03 キンムギは見つけたい。

 柔らかいイワシ雲、白けた日光に肌寒い秋の小風。  昼間の雑多な賑わいを見せる繁華街を缶ビール片手に揚々とした歩幅で歩くすずな。  鼻歌なんか歌っちゃったりして気分は秋の紅葉にも負けないほど高揚してた。  だけれども残念なことにそれは最初の十分の話。  駐車場、路地裏、デパート、コンビニとエトセトラ、エトセトラ。  キンムギに付き合い、三十分、一時間、二時間と負の芽を宿した小悪党を探すが一向に見つからず、通りがかった公園のベンチへドサッとがに股でお尻を降ろしてため息をついた。  辺りの確認もせず、軽率にバンバンとショルダーバッグを叩く。 「い、痛いムギ……」  バッグの中のお金のいらない自動販売機、もとい精霊が頭を出す。 「ねぇえ負の芽なんてホントにあるのぉお? 全然見つからないんだけどぉ」  言いながらキンムギの口元に右手をもっていく。 「だからってボクに八つ当たりしないで欲しいムギ」  ペッと唾を吐くようタバコとライターをすずなの手に吐き出した。  雑にフィルムを剥がして早速火を付ける一服。大きく息を吸い込み、静謐な公園の空気を白い煙で汚していく。 「まぁ居ても居なくてもすずなはどっちでもいいけどね。タダでタバコが吸えるしぃ」 「すずなちゃんは本当に現金ムギねぇ」 「あ、でもすずなに彼氏ができたら魔法少女は辞めるからね。いろいろ説明面倒くさい」 「それなら安心ムギね。こんなタバコとお酒の臭いのする人間を彼女にィイタタタタ!」  咥えタバコで目を光らせ、万力でキンムギの頭を握りしめる。 「ねぇキンムギィ、いつからそんなに冗談が上手くなったのぉ?」  短い手足をバタつかせてバッグの中で丸いキンムギが暴れる。 「痛いムギ! もげるムギ! あぁ頭が!」  といったところで満足して手を離す。再びタバコを指に挟んで紫煙を吐いた。 「いいもーん別にすずなだって今すぐ彼氏が欲しいわけじゃないからねー」  小さな鈴の音でふて腐れ気味にそっぽをむく。一旦怒りが収まったものの、しかし「はぁはぁ」と息の荒いキンムギは、精霊にもかかわらずバカだった。 「それはできない言い訳ムッギイイイイイ!」  額にねじ込まれる火のついたタバコ。アタリを引いた黒髭のようにバッグからスポンと飛び出すキンムギ。すずなはこの時初めて精霊も燃えるんだと理解した。  そして落ちてきたキンムギは、地面で横たわり情けなくも口から魂を漏らしてピクピクと悶えていた。  凄惨な相棒を横目にすずなは一言。 「はぁイケメンじゃなくていいから彼氏欲しいなぁ」  広場で遊ぶ親子、散歩を楽しむ老人、そして手と手を繋いで歩くカップルたち。  決して多いわけではないが、たとえ一組であってもシングルのすずなにとっては妬ま、いや羨ましかった。何せもう一年以上彼氏がいないのである。人肌恋しくなるのも当然で、クリスマスを目前に控えていればなおのこと。やっと相方ができたと思えば自身を精霊と名乗る奇妙な生物である。これが高身長で少しだけぽっちゃりとしたちょい悪系の男性の姿をしていたらまだやる気がでたのになぁ、と。  益体もない悩みにぼうと辺りを眺めていると、ふと、一組の男女に視線が止まった。  どうやら仲違いをしているようで、朗らかな公園には似つかわしくない険悪なムードをしていた。 「ねぇ、あそこのカップルどう思う?」  地べたで死んでいるキンムギを足で小突いて起こす。ハッと意識を取り戻しすずなの視線を追うキンムギ。 「ムギ? 痴話喧嘩ムギか?」 「まぁそうなんだけどさぁ。ほらぁ男の人は金髪のロン毛のバイカー風でぇ、女の子の方はセミロングで大人しめの服装とおっとりした見た目。ちょっと不釣り合いかなぁって」  その男女は確かにカップルと言うには二人の間に開きがあり、男性が強引に詰め寄っているようにも見えた。 「ナンパじゃないムギか?」 「だとしても普通ナンパをするなら人通りの多い駅前とかだと思うの。それが公園ってちょっと節操なくない?」 「うーん言われてみればそうムギね」  短い腕を平らなアゴに当てて首をひねる。 「そういえばキンムギは負の芽をどうやって見分けてるの?」  何かを思いだしたかのように立ち上がり、つま先立ちで伸びを一つ。 「よくぞきいてくれたムギ! ボククラスの精霊となれば半径20メートルに入ればすぐに感じ取れる能力を持っているムギ! これはすごいこと――」  胸を張って得意がるキンムギの丸い両耳をガシッと掴むと 「そ。だったらいって確認してこおおおおおい!」  そのまま男女の方へぶん投げた。 「ム! ムギィィィィィ!」  放物線を描きながら飛ぶキンムギは思う。契約は慎重にするべきだった、と。
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