契約書

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私の名前は岡本美知(ミチ)。大学3年生。現在、絶賛夏休みを満喫中。 窓の外から聞こえるセミの声を浴びなら、ベッドに寝そべってダラダラ漫画を読むのが好き。でも今日は?今日も?お母さんが邪魔をする。 「美知ぃ〜」 階段の下から呼ぶ。 「何〜?」 部屋から返事をしたと同時に扉が開いた。 「ちょっと仕事手伝って。」 お母さんはハウスキーパーの会社を経営している。子供の頃からお母さんの代わりに家のことをしていたので、一般的家事はできる。だから一般的家事の依頼があった時は、私に行かせることがある。 「バイト代出してくれるの?」 「うん。いいよ。」 「やった。それならやる!」 「社長宅だから高価な物には気をつけてね。」 「わかってるって。内容は?」 私は、クローゼットから服を出して着替えながら聞いた。 「いつも通りよ。もしかしたら料理もお願いされるかもしれない。」 「ふーん。わかった。」 「あ!あと、普段誰もいないみたい。テーブルに契約書を置いておくからサインして帰ってって。」 「え?そうなの?」 「うん。」 「契約期間は?夏休み中しか行けないよ。」 「大丈夫。お試しだから。夏休み期間終わる。それ以上になったら別の人にお願いする。」 「わかった。」 準備が終わったので1階の洗面所で髪を整えて玄関に向かった。 「行ってきまーす。」 「気をつけて行ってらっしゃい。あ!鍵!」 お母さんからお客さんの部屋の鍵を預かり、住所をメールしてもらった。 電車で30分くらいの距離で降車駅から徒歩5分。 <マジ?> 首を90度に曲げて見上げる。 <家賃高そうなタワマン。> エントランスでキーロック解除をし中に入る。エレベーターホールまでに更にキーロック解除する場所があった。 <セキュリティしっかりしてる。> もちろんコンシェルジュ付きのマンション。 エレベーター内の行き先ボタンを押すときに最上階だとわかり<すご!>と思った。もう一つ驚いたのは、エレベーターのドアが開くと目の前が玄関だった。 <ワオ!> 恐る恐る鍵を差して開錠し扉を開けた。部屋の中から良い香りが…。 「お邪魔します。」 返ってくる声もない。 <誰もいないって言ってたもんね。> 部屋に入って最初に目に飛び込んできたのは、180度全面ガラス張りから見える都会のビル達。私は窓に近づき下界を眺めた。 「すごい。夜景とか綺麗なんだろうな〜」 しばらく窓から見える景色を堪能し、テーブルの上の契約書を見た。ポストイットに【内容を確認して】と書いてあったが、どの契約書も似たり寄ったりだろうと思いサインだけした。 「これでOK」 私のサインの上には「神崎広人」と書いてあった。 〈家主さんの名前…ひろと…カッコ良さそうな名前〉 荷物を持ち玄関を出た。エレベーターを降りてエントランスに向かう途中、推定185センチの高身長、黒髪、鼻が高くてキリッとした眉毛の彫刻のような横顔。まるで芸能人のようなスーツ姿の男性とすれ違った。 <ん?この匂い> さっきの部屋で嗅いだ匂いと同じだった。 <あんなイケメンな人が家主だったら良いなぁ〜。> と淡い期待を胸に鼻唄を歌いながら帰った。 10日後… 「行って来まーす。」 今日は行く日。毎日じゃないから楽だ。 <初日に行った時にすれ違った男の人が家主だったら…> と思うだけでドキドキした。   「おじゃまします。今日も居ないのかな?」 小さな声で呟き、部屋に入った。 洗濯機を回している間にお風呂掃除をする。浴槽の内側や外側…壁や床…排水口の中も洗う。正直、排水口から長い髪の毛が出てくるのは気持ち悪い。   「はぁ〜排水口の髪の毛くらい。取って捨てて欲しい…。」 「何?」 急に声がして、シャワーを持ったまま尻モチをついてしまった。   「きゃーーーーーーぁ!!」 「んだよ!うっせーな!!つかシャワー!」 「あ…は…はい…。あ…あ…。」 慌てて止めようとして間違えて思いっきり出してしまった。   「馬鹿!っったく!」 キュッ 「す…すみません…。」 彼のことを見上げた。   「ぎゃーーーーーぁーーーー!!」 「うるせー!!」 「だ…だって…。」 「男の裸見たことねーこたねーだろ?」 「わかってて見るのと、知らない人の見るのとじゃ違います!」 「で?その知らない人の裸の下にどのくらい座ってるつもり?」 彼は私の前に股を大きく開いて座り私のことを下から覗き込む。 <だから見えてるってば!>   「直ぐに出ます。」 「濡れてんじゃん…脱いだら?」 「出てから着替えますから…。」 「外で脱ごうがココで脱ごうが同じだろ?」 「同じじゃありません!!」 「声!デカ!!耳がキンキンすんだろ!!」 私は慌ててバスルームから出た。初日にすれ違ったイケメン高身長さんに間違いなかった。が!! <何なの?あの家主。良いのは顔だけ?頭悪すぎ…。>   《履歴書の写真より可愛いじゃん。どんなコトしてもらおっかな…。楽しみだ…。》
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