夜と俳句

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「まもなく、大塚、大塚です」 その無機質なアナウンスと共に、酔いが回って陽気になったサラリーマン達が自動ドアの方へ向かってわらわらと動き出す。 いつもの通勤列車とは違った様子の電車内にぎょっとしてあわてて腕時計を確認すると、針が12を指していた。 山手線ははっきりとした終点がないから寝落ちした後は誰に起こされることもなく今に至ったということなのだろう。 俺はおぼつかない足元の黒スーツの男たちを交わし、いつも腰かける駅のホームにおっこいせと座り込んだ。 見慣れた駅前のビルの明かりもすっかり消え、辺りは静まり返っている。 さっきの酔っぱらい共がホームから立ち去り、自分も家に帰んないと思って改札の方へ向かおうとすると、一枚の紙が目に飛び込んできた。 「忘れ物 見たら必ず 届けよう」 そうでかでかと書かれた忘れ物防止を呼びかける1枚のポスター。 こんなありふれたものになんか、いつもは気にならないのにその日はどうしたんだろうか。まだ俺が小学校だった頃の記憶が鮮明に思い出された―――― 俺はここ・大塚に生まれ育ち、今も実家近くのマンションを借りている。
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