降り積もる声はもう聴こえない

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 この春から中学受験を失敗したことを知る小学校の同級生たちと同じ公立中学校に通うことになったが,絵梨花にとって異常ともいえる教育熱心な母親を知る同級生が中学校にいることは精神的な拷問でしかなかった。  絵梨花と一緒に受験した塾の友達たちは,滑り止めを受けていたこともあり全員がどこかの中学校に受かっていた。  日本でトップクラスの二校しか受験しなかったことに後悔もしたが,すべては手遅れだった。塾の模試では常に合格判定が出ていたにもかかわらず,失敗したことで母親の受けたショックは計り知れなかった。  絵梨花は荒れ狂う母親から逃げるように家を出て,毎日なにも考えずにただ街を徘徊した。深夜になって疲れ切って帰宅しても両親はなにも言わず,注意すらしなかった。  何日も深夜に帰宅することが続いたある日,いつもついていた玄関の電気が消えているのを見た瞬間,涙が溢れ出した。真っ暗な玄関を見て,この家にはもう自分の居場所がないことを受け入れようとしたが,溢れる涙がすべてを拒否した。 「わかんないよ……私,どうしたらいいのか,もう,わかんないよ……」  震える手で玄関のドアノブに触れると,ドアノブがカチリと音を立てただけでビクともしなかった。 「あ……鍵持ってない……塾の鞄のなかだ……」  玄関前で膝から崩れ落ち,冷たいコンクリートの上に座り込んだ。両膝を抱え込みうずくまったが,春とはいえ夜の冷え込みは小さな身体から体温を奪っていった。
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