降り積もる声はもう聴こえない

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 足元にピンク色の花びらが舞い降り,絵梨花の視線を上に向けた。 「え……? 桜……?」  夜の住宅街に桜の花が舞い散り,絵梨花の回りをピンク色に染めた。月明かりが絵梨花を包み込み,寒さから守ってくれているようだった。  どこからともなく舞い散る桜の花が絵梨花を包み込むと,何本もの幼い手が花びらから伸びてきて絵梨花の手を取った。無数の小さな手は絵梨花を支え,優しく立ち上がらせると,そのまま手を引いて並木道へと連れて行った。 「綺麗……いい匂い……」  降り積もる花びらを踏み締めながら並木道を抜けると,暖かい手に導かれるようにして六年間通った小学校のグラウンドへと出た。 「あれ……? どうして学校に……?」  ピンク色の花びらが激しく舞い上がり,絵梨花を包み込むと,そのまま一緒に非常階段を上がって屋上へと連れて行った。 「え……ここって……屋上? どうやってここへ……?」  屋上から見るグラウンドは一面ピンク色に染められ,降り積もる花びらが柔らかな絨毯のようで美しく,夜空に舞う花びらがドームのようになっていた。 「綺麗……可愛い……それに,いい匂い……」  頭の中で子どもたちの笑い声が響き渡り,絵梨花の回りを楽しそうに駆けているように感じた。月明かりに照らされた花びらはどれも綺麗なピンク色で,まるで絵本の世界のようだった。 『こっちにおいでよ……君の世界はこっちだよ……』 「え……? 誰……? こっちってどっち?」
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