降り積もる声はもう聴こえない

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 突然突き上げるような突風が絵梨花の身体を宙を舞い上げ,降り積もった花びらの絨毯へと吸い込まれるように落下していった。 「え……なに……?」  その瞬間,綺麗な花びらは消えてなくなり,真っ黒に変色した汚れた花びらの残骸が波打つように渦を巻いた。渦は激しさを増し,ぶつかり合うとザワザワと子供たちの話し声が聞こえてきた。 『ねぇ……この子,わざとだよ……?』 『なんだ……こいつ……』 『うわっ汚ねぇ……気持ち悪いな……』 『こんなの,いらない……』 『なんなの……こいつ……』 「ねぇ,あなたたち,誰? これってなんなの?」  絵梨花が屋上から落ちていく間,さっきとは違う悪意に満ちた無数の声が絵梨花の周りで飛び交った。真っ黒に染まったグラウンドの花びらから数えきれない幼い腕が生え,風に揺らめくように左右に揺れた。 『この子……私たちとは違うよ……』 『こいつ,わざとだよ』 『こんなやつ,やだよ……穢れてるじゃん』 「ねぇ,さっきから私の頭の中で囁いてるのは誰なの?」  次の瞬間,絵梨花の脇を小さな男の子が泣きながらすり抜けるように落ちて行った。男の子の顔は痣だらけで,制服は泥だらけで裸足だった。 「え……?」  振り向くと不自然に髪の毛を短く切られた首筋に火傷痕が目立つ女の子が固く目を瞑り,小さなぬいぐるみを抱きしめて同じように落ちて行った。 「誰……?」  次から次へと幼い子どもたちが絵梨花を追い越してグラウンドへと落ちてゆき,地面に叩きつけられると真っ黒な花びらとなって辺り一面に積もっていった。
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