降り積もる声はもう聴こえない

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 驚いて周りを見ると,服が引きちぎられた真っ黒な下半身の女の子が血が滲んだ顔を腫らして横をすり抜けていった。 『私はいいと思うよ……』 『僕も問題ないよ……』 『だって復讐でしょ……』 『うん……復讐だよね……』  首にロープが巻かれ,骨と皮だけになった男の子が通り過ぎる瞬間,腕を伸ばして絵梨花の頬を醜く爪が剥がされた指先で優しく撫でた。 『可哀想に……お母さんに裏切られたんだね……お母さんの前で中年の家庭教師に身体を(もてあそ)ばれたんだね……』 『だから両親が一番ショックを受ける……残酷な復讐をしたんだな……』 『ねぇ,この子を受け入れてあげようよ……私たちと同じだよ』 『あなたのお母さん,塾の先生といやらしいことしてたんだよね……』 『この子,全部知ってた……全然見てた……そして自分の身体も汚い大人たちに穢された……怖くて,死ぬほど恥ずかしかったんだよ……』  すぐ横をすり抜けるように落ちていく歯のない女の子の腕は煙草を押し付けられてできた火傷痕で埋め尽くされ,髪の毛は焼かれてチリチリになっていた。 『受け入れてあげようよ……誰も助けてくれなかったんだから』 『だって,この子,入学試験の解答用紙……ほとんど白紙で出してるんだもん……』 『この子,もう穢れちゃってるけど,それは僕たちも一緒だよ……』  ボロボロになった子どもたちが次から次へと絵梨花を追い越し,真っ暗な地面に叩きつけられる度に声が頭の中に響き渡った。 『あなたの親は守ってくれなかったんだね……あなたを裏切ったんだ。そう,だからあなたは復讐した……身体を使ってまで塾に通わせた異常な母親に復讐した……』
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