首斬り女

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 開催する方も招待される方も空気感染がメインの感染ルートだと知らない。それにオミクロン株は仮令、感染しても重症化リスクが低く、ほとんどが軽症か無症状で済むから恐れるに足らずと高を括っている。だからだろうか、昨年は感染急増ということで中止したのに今年は同じく感染急増しているにも拘らず開催する成人式に多くの新成人が参加してしまった。その大阪市此花区のテーマパーク「USJ」での成人式は、8日と15日の2回に分けて行われ、昨年、新成人になるも成人式を経験できなかった者たちも多く参加し、閉演後もアトラクションが興行され、その踊りに合わせて皆が密状態で躍る事態になってしまった。而も市長がステージに立って音頭を取るように一緒に踊る始末だ。これは人災に値すると言って良い。  何しろ公表される感染者数は、国民のほんの一部しか検査していないから氷山の一角に過ぎず、未確認の無症状感染者も参加しただろうし、空気感染するし、感染力が強いから隠れクラスターが発生した可能性があり、軽症者のみならず無症状者もその三割位が記憶障害や脱毛など後遺症を発症するのだ。だから軽症か無症状で済むからと言って安閑とはしていられない。寧ろ記憶障害とは脳の障害に他ならず、真面に生活出来なくなるし、脱毛してハゲになったら落ち込んでこれまた真面に生活出来なくなるから或る意味、重症と言えなくもない。然るにオミクロン株はほとんどが軽症か無症状で済むし、死者が少ないから2類から5類にするべきだと安部のアホは懲りずにまたアホなことをほざいている。  僕から見れば、成人式に参加した奴らもアホで成人式の前から既に無症状感染者となっていて脳障害を起こしていたから成人式に参加したのかもしれない。それは悪い冗談にしても高校時代、同窓だった者たちを思い浮かべても同類のアホばっかりだったのは確かで取りも直さず俗物予備軍に他ならず、成人式で晴れて俗物デビューしたことだろう。  以上の様に思う今村は、当然、成人式に参加しなかったし、自ずと孤独になる。真の意味で真面な人程、ボッチになる。と言うのは世間では多数派の俗物が真面と見做されているからだ。  実際、今村は高校時代、周囲の人間に幻滅し続け、友と呼べる者がいなくなった。そのことを彼は誇りに思っている。      ※  星のない晩に今日はいるかなあと思いつつ立ちんぼスポットである○○公園周辺を尾関は車でのろのろ走り、○○公園沿いの道をぐるぐる回っていると、立ちんぼらしき女が○○公園のネットフェンスにもたれて立っているのが見えた。で、ゆっくり近づいて行くと、彼女が気づいて横に立てかけておいたギターケースを持ってこっちへ向かって来た。それを見て尾関は妙に思いながらもやっぱり立ちんぼだと思って車を路肩に停め、交渉することにした。  マスクをしておらず、すごい美人であることが分かった尾関は、こんな上玉が!信じられん!これは高いに違いないと思いつつ交渉に入った。 「幾らならできる?」 「あたしの指定場所まで連れてってくれるなら三千円で良いわ」 「えっ!マジで?!本番だよ。俺の要求するのは」 「そうよ。その積もりよ、連れてってくれる?」 「ああ、勿論さ、さあ、横に乗って!」  という訳で尾関はビク・リカと名乗る美女を助手席に乗せると、△山の中腹にある駐車場に行くこととなった。 「こんなとこでカーセックスしようって言うのかい?」 「そうよ。落ち着いてできるもん」 「確かにこんな時間にこんな所へ誰も来ないだろうけど・・・」  不審になりながらも尾関はこの女と出来るなら場所なんかどうでも良いと後部シートを倒して広くなったトランクルームで思いを遂げることが出来た。  ところが、尾関はいった直後、怒り狂ったリカに日本刀で首をぶった切られてしまった。リカがトランクに置かせてもらったギターケースの中に日本刀を忍ばせていたのだ。  座した体で鯉口を切って抜刀し、業物を左から薙ぎつけ、首を輪切りにすると、袈裟に振り下ろし、血ぶりをして納刀する一連の動作は、堂に入っている。  返り血を浴びた綺麗首に鬼の首を取ったように喜色満面の笑みを湛えた気色は、正に妖姫だ。  リカはギターケースを駐車場に降ろしてから尾関の車を運転して駐車場の端辺りまで来ると、駐車場に飛び降りた。で、崖っぷちから落下した尾関の車は、崖底まで転げ落ち、尾関の死骸諸共爆発して大破した。  その後、リカは尾関の魂を抜き取った死神が駆る、白骨化した空飛ぶ馬によって自宅へ送られた。      ※  一年程前、リカは彼氏に裏切られた。或る令嬢に傾いた彼氏に、その儘、見捨てられたのだ。で、元彼を恨み、悲嘆に暮れていると、何処からどうやって来たものか謎の男がひょっこり目の前に現れた。 「嘸かし悔しいであろうが、お前の鬱憤を晴らし、お前にとって相応しい男と巡り合えるようにしてやろう」  胸の内を見透かしたようにこんなことを言う男に不可思議になったリカは、我知らず誰何した。 「あ、あなたは誰?」 「俺は死神だ」 「えー!」と吃驚するリカに男は言った。「だから人間の魂が欲しい。それも若いのを沢山だ。そこでだ、これをお前に授けよう」差し出したのはギターケースだった。「この中に日本刀が入っている。名刀であり妖刀である。この柄を一度握れば、お前とセックスする男の正体を見抜き、糞なら怒り狂って、その糞男の首を斬り捨てる衝動に駆られ、神掛かって遂行することになる。しかし、相手に対し、恋心を持てば、その相手がお前に相応しい男ということになる。さ、開けて握ってみよ」  リカは言われた通りにした。 「よし、では、今日からお前は立ちんぼのふりをして男を誘い」云々かんぬんとメソッドを伝授されたリカによって首斬りに遭った尾関は、99人目の斬首刑囚として処刑されたのだった。        ※  コロナ感染が原因か?◇県内の山々の崖から車による飛び降り自殺が相次いで起こるなぞとニュースが飛び交う中、果たして100人目の斬首刑囚として処刑されてしまうのか、今村は以前に○○公園沿いの道を車で通った時、偶然リカを目撃して、その時は立ちんぼと確信できなかったので通り過ぎてしまったが、ほってはおけんと今晩も来てみると、案の定いたので立ちんぼと確信し、今日は口説いて改心させようとリカのいる前の路肩に車を停めた。   すると、思った通りリカが寄って来たので今村は運転席の窓を開けた。 「君みたいな美人が立ちんぼなんかするもんじゃないよ」  こんなことを始めて言われたリカは、手応えを感じてこう言った。 「口説きたいならあたしの行きたい所に連れてって」 「いいねえ、君みたいな美人とドライブなんて最高だ。さ、横に乗りな」  という訳で今村はリカを助手席に乗せると、□山へ向かうこととなり、その道中、彼女に聞いてみた。 「ひょっとして路上ライブもやるのかい?」 「そんなことしないわ。只の趣味」 「そうか、しかし、立ちんぼなんかじゃなくて路上ライブで稼げればいいのにね」 「私はこれでも良いのよ。目的は一つ。あなたもでしょ」 「えっ」 「私としたいんでしょ」 「そ、そりゃあ、まあ、君を立ちんぼとしてじゃなくて、それ以外の者としてであれば、ね」 「じゃあ、それでもいいわ」 「えっ?」 「兎に角、あたし、あなたとしてから判断したいの」 」 「な、何を?」 「今は秘密・・・」  そんな謎めいたことを言ったりして□山の中腹にある駐車場に着くなり、「さあ、リアシートを倒してトランクルームでしましょ!」とリカが言うので今村は根っからのヤリマンなのかと疑いつつ驚くやら嬉しいやらで誘われるが儘、彼女の言う通りにしてゴールデンタイムと相成った。で、リカは今村と共に極上の法悦を味わった後、例の感情に駆られること無く恋心を持ったので思わず今村に抱き着いて、「嗚呼、遂に巡り合えたわ!あなたこそ、あたしに相応しい男性だわ!」と快哉を叫び、歓天喜地の至境に達した。  と同時にギターケースの中にあった日本刀が跡形もなく消え、代わりに本物のギターが現れた。そしてギターに、「若い魂を沢山くれた御礼だ。それと真面な男と出会えて良かったな。おめでとうと述べておくよ。死神より」と書かれた紙が添えてあった。  ギターにすり替わっているのを見て驚嘆したリカは、それを読んで今村との同棲生活の中でコロナ禍だし、部屋に籠って大人しく練習するのも良いかもと思うのだった。
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