雪と後輩と帰り道の話

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薄っすらと白い膜が張ったアスファルトに、2人分の足跡が続いていく。 駅から美菜加さんの家まで15分。 ふだんは駅で別れるが、せっかくの初雪だし少し歩きましょう、と俺から提案した。 美菜加さんの自転車は俺が押して行くつもりだったが、駅に置いておくからいいと言う。 よかったんですか?と聞くと、 「いいのいいの。どうせ朝は凍ってて危ないし、今日は置きっぱにしようって思ってたから」 なるほど。じゃあ、手繋げますね。 おどけて言ったつもりが、思ったより真面目なトーンになってしまった。 妙に照れくさかったので、前を向いたまま美菜加さんの左手を掴まえる。 ひんやりした感触の手は、強く握ると溶けそうなほど小さかった。 美菜加さんは一瞬固まったように見えたが、すぐにはにかんで、ぶんぶんと繋いだ手を振ってみせた。 こんな些細なことにも、笑って付き合ってくれるのが嬉しい。 大粒の雪はまだまだ止む気配がなく、生垣や立て看板の輪郭を白く縁取っていく。このぶんだと、明日の朝にはかなり積もってそうだ。 「すごいね。あっという間に積もっちゃった」 美菜加さんも同じことを考えていたらしい。 「不思議だよね。こんな小さい粒なのに、最初に積もる雪はなんで溶けずにずっと残ってるんだろ」 言葉と一緒に吐いた息が白く染まっている。 2人とも傘をさしていないため、コートの肩口やフードにも雪が乗っていた。 片手を伸ばし、美菜加さんのコートを軽く払う。 「なんか、そんなような詩がなかったでしたっけ。雪はすぐ溶けちゃうのにいつの間にか積もってるから、一番下の雪を見てみたい、的な」 「ええ、そうだっけ?そうだったかな…」 されるがままに雪を払われながら、ちょっと考えるふうをする。 「そうだったかも。なんだっけかなぁ、小さい女の子の作文みたいなやつだよね?」 「作文、うーん、たぶんそんな感じだった…ような」 2人してうんうん唸ったところで、それっぽい結論は思い浮かばない。 後で検索しようと思っていると、不意に繋いだ手が解かれた。 美菜加さんがこっちを覗き込み、お返しとばかりにジャケットに付いた雪を両手ではたいてくれた。 美菜加さんはフードのほうへ手を伸ばして、 「頭、届かない」 と言うので、身を屈めて頭を突き出した。 美菜加さんは雪を落とした後、するりとフードの中に手を入れて、また俺の頭を触ったようだった。 「はい、オッケー」 頭を上げて横を見る。その満足そうな顔に、訝しげな視線を送ってやった。 「知ってますか。つむじを3回押すと下痢になるって話」 「知ってる」 悪戯っぽく笑って、美菜加さんは先を歩き出した。 いつもの帰り道。 他愛ない会話。 雪が降ってたって、傘がなくたって。 道中一緒に楽しめる相手がいるのは、とてつもなく幸運なことかもしれない。 現状に感謝している。 春になれば大会に向けて忙しくなってくるだろうし、その頃には美菜加さんは受験生だ。 いつまでも今のままいられるわけじゃない。 だからこそ、楽しいと感じるこの瞬間が何より大事だ。 そのことをわかってるから、俺は大丈夫。 一番下の雪は、すでに敷かれた後だろう。 1日1日を積み重ねて、いつの間にか驚くほど積もっているといい。 俺はラケットケースを背負い直して、小走りで美菜加さんの後を追った。
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