第5話 めくるめく初体験

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第5話 めくるめく初体験

 可愛がってきた鉄魚の(ぎょう)小鉄(こてつ)が、飼い主である蒼生(あおい)の危機を心配して、なんと人間の姿になって助けに駆け付けてくれた。 「BLマンガの絡み絵がうまく描けない」  そんな恥ずかしい悩みを打ち明けた蒼生を馬鹿にすることなく、躊躇なく愛を交わして見せただけでなく、二匹は「蒼生も自分で体験してみるべきだ」と言うのである。 「やだやだ……。恥ずかしいし、僕、できないよ」 「蒼生、ゲイビ観て、自分でしてたじゃん。それがオレたちの手とか口に変わるだけだよ?」 「そうそう。一人でしてた蒼生、めちゃくちゃ気持ち良さそうだった」  羞恥でかぶりを振って抵抗する蒼生に、二匹は思わせぶりにクスクスと笑い、愛撫の手を止めようとはしない。 「ねえ、蒼生。なんで俺らが、初めてなのに上手くできたか分かる……? 蒼生が観てたエッチな漫画やビデオからも色々勉強したけど、蒼生の一人エッチが、すごく気持ち良さそうだったからだよ」 「今度は、オレたちとしてよ」  その言葉を裏打ちするように、二匹は、的確に蒼生が感じる場所を、気持ち良い触り方で愛撫してくる。身体のこわばりはあっという間にほどけ、蒼生はその身を二匹に委ねていた。あらわになった蒼生の肌を、二匹の唇が這う。 「ああ……、柔らかくて甘くて気持ちいよ、蒼生。可愛い」 「すごく良い匂い」 「う……、あっ……」  柔らかかった胸の突起は、二匹の唇と歯に柔く食まれて、身を竦めて固く立ち上がり、じんじんする。肌は汗と唾液でぬめぬめと滑り、二匹の肌とこすれて、産毛が快感を生んで立ち上がっている。呼吸がかすかに震える。その時、蒼生の分身が、ぶるんと大きく上下に振れた。 「ぁ……、やだっ……」  快感を正直に訴え、構ってくれとばかりに主張するなんて、はしたない。蒼生は恥ずかしくて、べそをかいた。しかし、二匹は蒼生の反応に嬉しそうだ。 「ふふ。蒼生、やじゃないでしょ? 気持ち良いって、ここは言ってるよ?」 「ここも、いっぱい蒼生が感じるとこあるもんね。可愛がってあげなくちゃ」  蒼生に強い恩義と愛情を感じ、蒼生だけを見つめてきた二匹の愛撫は、この上なく丁寧で優しく、そして念入りだった。蒼生は、前も後ろも二匹に舐められ、しゃぶられたり吸われたりして、羞恥がどこかへ消え失せるほど感じ入った。あまりの快感に、目の焦点も定まらない蕩けた表情で、今や二匹にされるがままだ。  小鉄は、当たり前のように、蒼生が日ごろから愛用するローションをベッド脇の棚から引っ張り出し、液体を蒼生の背後の窄まりに垂らす。すかさず暁が、指を蒼生の蕾に差し入れる。舌による愛撫で温められ、リラックスしていたことと、普段から玩具で多少拡張していることもあってか、蒼生の蕾は、暁の優美な細い指をすんなりと受け入れた。 「ふ、んんっ……。って、んあっ?! ふぁあああ」  異物感を感じる隙も無かった。暁は指を前後に抽送したり曲げたりしながら、蒼生の良いところを瞬時に探り当てた。 「すごい。蒼生、奥でも感じてくれてる。嬉しい」  暁は言葉通り嬉しそうに声を弾ませているが、蒼生はパニックだ。さっきから、人生で初めて体験する快感の連続。いわば快感の大渋滞だ。水から打ち上げられた魚のように、不規則に、時折じたばたと手足を不器用に動かすことしかできない。 「ねえ、僕、もう……」  ようやく、息も絶え絶えに一言発すると、暁は 「あっ、ごめんね。焦らし過ぎちゃった? 確かに、これを入れられると、すっごく気持ち良いんだよね」  屹立した分身を蒼生の後孔に宛がい、反論する間も与えず、その切っ先を差し入れた。 「暁兄さんとの絡みを見てたら、オレも興奮しちゃった。ねぇ、蒼生。オレの、口でしてくれる?」  昂った小鉄が、蒼生の口を犯す。 「ふっ、うううう、ん、ふぐぅうう」  声をあげたい。思いっきり喘ぎたいのに、口が塞がれていて、できない。その倒錯的な快感に、蒼生の(まなじり)からは涙が一筋伝う。 「蒼生、もっと舌使って。ねぇ、僕らがしてあげたみたいに、筋に沿って舐めてよ」  弟の小鉄は、色っぽいほくろのある口元を可愛らしく尖らせて、甘い声でおねだりしてくる。兄の暁は、逞しい腰から力強い律動を繰り出し、その剛直で蒼生の後孔を奥までなぶる。 「はぁっ、あん、いく、いくっ!」  後ろへの刺激だけで、蒼生は達した。前からも白濁が噴きこぼれる。しかし、『これがトコロテンというものか』などと考える余裕はなかった。小鉄が蒼生の下に滑り込み、蒼生の達したばかりの分身を再び舐め始めた。 「あー……、あー……、あー……」  達したばかりだというのに、前は早くも再び主張を始め、暁を咥えこんだままの後ろは、はくはくと不規則に収縮を繰り返し、なおも貪欲に快楽を拾おうとしている。もはや蒼生の口からこぼれる音は、意味のある言葉を紡いでいない。うわ言のように断片的な音を発するだけだ。  二匹からの前後への刺激で再び絶頂に達した後は、暁に替わって後孔には小鉄。そして、蒼生の昂りは、なんと暁の後孔へと誘いこまれた。 「あー……、あー……、あー……」  二匹のされるがまま、ありとあらゆるバリエーションでの絡みを繰り返し、押し入ったり押し入られたりの痴態を一昼夜繰り返し、快感を貪り続けた。 「僕、こんなにエッチなことが好きだったなんて。自分でも知らなかった」  喘ぎ声に混じって蒼生が囁くと、二匹が声を揃えて応えた。 「エッチな蒼生、大好きだよ」  初めての性体験が、3P(P?)しかも愛ある気持ち良いセックス。この稀有(けう)な体験を蒼生は漫画にした。担当編集をも唸らせる絡みのシーンの艶めかしさと、一人と二匹の心温まる触れ合いを描いた作品は、大ヒットとなった。  その後の蒼生と二匹はどうなったか?  普段は鉄魚の姿でいた方が性に合うと、二匹は水槽に戻った。しかし、彼らも男の子。気持ち良いことがしたくなったら水槽を出て人の姿に戻り、蒼生と共に愛ある生活を営み続けた。こういう幸せのかたちが訪れるなんて、二匹と出会った縁日の日には思いも寄らなかった。 『もしあの日、自分が縁日に立ち寄っていなかったら』  そんな風に考え、運命のいたずらに感謝する蒼生と二匹なのだった。
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