沈む君

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グレーチングの鉄の蓋が思いの外 重く持ち上げるのに手間取った。 わたしは暫くお地蔵さまを抱き抱えて丸い微笑み顔を見つめた。 「ヒトシ…これで良いんだよね」 わたしは呟くと四つん這いになりそれ程遠くない流れ続ける水面にそっと落とした。 その瞬間 指先が痺れたような感じと共に重く伸し掛かっていた湿った雲の重みがすっと晴れたような気がした。 わたしはヒトシの顔を思い出していた あの優しい微笑みとたまに見せる少しだけワガママな顔 あの時 沈みながらわたしを呼ぶ声を包んだ数しれぬ水泡 遊びに夢中なわたし ヒトシを記憶した水は流れる事なく留まり続けた そして今あの日見た水面に揺れていたヒトシの記憶は溶け出して消えて行った。 完
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