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「そう言えば桂花。どうしてあそこの薬局にしたんだい。確か、漢方はさっぱりと愚痴を零していなかったか」
「うっ」
さすがは日々近所の人たちの悩みを聞くこともある住職。龍玄はしっかり桂花のぼやきも覚えていたらしい。
それは国家試験が迫る中。静かなこのお寺で最後の追い込みをさせてもらった時に漏らした言葉だ。
「あそこはここらでは有名な漢方薬局だろうに」
「うっ。それを知らずに入ったのよ。まさかあんなに漢方薬ばかりだったなんて。って、お祖父ちゃん。知ってたんだったら就職する前に教えてくれればいいじゃない」
「何を言っておる。そういうのは自分で調べるものだろう。しかし、そうだったのか。となるとあれか」
そこで龍玄はにやりと笑う。それに桂花は何よと睨み返したが
「薬師寺さんに一目惚れか」
「うっ」
あまりに図星を指されて、桂花は顔を真っ赤にするしかなかった。
実際は憧れの人にそっくりだったからだけど、憧れの人には一目惚れしているようなもので、否定し辛い。その反応に龍玄はからからと笑ってくれる。
「なあんだ。そういうことか」
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