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「いや、そういうことかじゃないのよ。それに薬師寺さんに惚れたというか」
「というか、なんだ。他に理由があるのか」
「ぐっ。お祖父ちゃん、誘導尋問は駄目よ」
すらすらと総てを白状しそうになって、桂花は危ない危ないと手でストップをかけた。
ひょっとして普段も、檀家からこうやってあれこれ悩みを聞き出しているのか。そう思うとぞっとしてしまう。これからは迂闊なことは言えないなと、桂花は注意すべくうんうんと頷いた。
「誘導尋問とは人聞きの悪い。何かあるようだから質問しただけだろうに。しかしまあ、なにやら訳ありだというのは解ったよ。そしてちゃんとした理由があるんだったら、文句言わずに頑張らないとなあ」
「ううっ」
その通りです。漢方が苦手なんて言っている場合じゃないんです。
桂花はテーブルを叩いて悔しがることしか出来ない。
なぜ、なぜ謎の陰陽師きっかけでこんな展開に。桂花は歯ぎしりしてしまったが、意地でもあそこを選んだ理由は白状せずに済ませたのだった。
その夜。お寺の居住スペースの客間で布団に潜り込んだ桂花は、散々な一日だったなあと天井の木目を見つめながらぼやいてしまった。
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