蓮華薬師堂薬局の処方箋

32/235
481人が本棚に入れています
本棚に追加
/235ページ
「そうだ。これをあげよう」  じっと見つめていたら、その人は茶色の飴玉をくれた。きっとお腹が空いていると勘違いしたのだろう。  実際にお腹も空いていたし、喉もカラカラだったから、桂花は素直に受け取ると、その飴玉を口の中に放り込んだ。  それは甘い味わいなのに何だか不思議な味がして、食べたことのない飴だった。しかもほんのり柔らかく、すぐに口の中で溶けてしまう。 「これはなんていう飴ちゃんなの」 「ああ、それはね、僕が作った飴なんだよ。だから名前はないんだ」 「そうなの。じゃあ、お兄さんはお菓子屋さんの人なの」 「ううん。お菓子屋さんじゃないんだ。そうだなあ、何て言えばいいかなあ、そうそう、薬剤師なんだよ。知ってるかい、薬剤師」 「薬局にいる人でしょ。お薬をくれる人だよね」 「そうそう。偉いねえ」 「そのくらい知ってるよ。桂花はもう五年生だよ」  迷子になったことを棚に上げ、自分はもう大人だとばかりに桂花は主張した。すると、その人はくすくすと笑って謝ってくれた。
/235ページ

最初のコメントを投稿しよう!