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思わず動揺してしまったのは、あまりに法明との共通点が多いからか、それとも自分の迂闊さからか。それとも両方か。
あの人は本当にお寺の前まで桂花を送り届けてくれて、そして気づいた時にはいなくなっていた。
お礼を言う暇さえなく消えてしまった人。あの人は一体何者だったのだろう。
「まさか薬師寺さん本人なんてことは……ないない。だって年齢が合わないもの」
動揺して憧れの人と法明がイコールで結ばれそうになったが、それは絶対にない。断じて起こりえない。
そもそも、思い出の中の人はすでに三十代だった。それははっきりと断言できる。小学五年生とはいえ、大人の大体の年齢は推測できるものだ。そして、法明は現在三十五歳。絶対にイコールではない。
「ああ、駄目だ。完全に目が醒めちゃった」
考えれば考えるほど、頭の中はぐちゃぐちゃになっていく。
桂花は布団から抜け出すと、そのままひんやりとした廊下へと出た。そしてゆっくりとお寺の本堂の方向へと歩き出す。
「こういう時は無理に寝ないで、一度リセットするのが肝心」
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