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細部を思い出して動揺する自分を落ち着けようと、深呼吸をしてしんと冷えた夜気を吸い込む。
ほんのりと空気に線香の香りが混ざっているのは、お寺特有だ。ここではよく沈香が焚かれていて、気品ある香りが充満している。その香りを堪能していると気分は落ち着いてきたが、ますます目が醒めてしまった。
「本堂まで行って、ちょっと休憩して頭をリフレッシュさせて、戻って温かいお茶でも飲もう。うん」
静かな廊下をゆっくりと進み、渡り廊下を通って本堂へと抜ける。その本堂はとても大きく、普段は龍玄やそのお弟子さんしか入らない空間だ。法事がある時は解放されるものの、あまり部外者が立ち入らない空間。しかし、ここの孫である桂花は、昔からちょくちょく本堂に勝手にお邪魔している。
「うわあ。久々だなあ」
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